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──翌日。
肌触りのいいベッドのなかで目を覚ました朝霧光鶴は、手当てされた太ももに頬を緩めた。
朝食の準備を始めて、トーストのいい香りがしはじめれば、音弥が顔をみせる。
「光鶴、起きた? 今日いつもの病院にいけるように手配したから、朝食とお風呂はいろう」
「ん、ちょっと先にメール確認させて」
タブレットで重要な連絡があるかどうかだけは、朝一番で確認するのが常だ。
「わかった。準備してるから声かけてくれ」
音弥に返事をしつつ、メールの確認をしていると以前に依頼をしていた探偵事務所ら
〝スプーン〟についての件で連絡がきていた。
なによりも先にデータをダウンロードして確認をしていく。
「……、音弥、音弥!」
「なに、どうした?」
「こちら、以前依頼していた〝スプーン〟についてなんですが、例のツイートの深夜にやってる喫茶店の住所が昨日教えてもらった場所でした。それから、こちらをどうぞ」
驚いているのか口調が仕事時のそれになっている光鶴から渡されたタブレット画面に映し出された資料には、〝スプーン〟についてと記載があった。
──〝スプーン〟と呼ばれる人物に聞き込みをした内容を記載する。
曰く、〝スプーン〟とは〝殺す者〟であり、〝救う者〟である。
自死、他殺に拘らず〝死〟を願う人間へ〝死〟を与える者である。
簡単に云えば犯罪者だが、依頼者やその遺族から警察への通報はなく、殺害したという証拠もないためこの情報のみでは立証はできない犯罪を犯しているということだった。
「子細はあとで確認して頂きたいですが、音弥のお姉さまはなにか〝サプリメント〟を飲まれていましたか?」
「え、聞いたことはないけど……」
「この情報は〝スプーン〟とは別なんですが、〝GZ〟というサプリメントを飲むと、〝フォーク〟の味覚障害を一時的に緩和、というか味がわかるようになるそうです。依存症状がでるかもしれないモノで、成分としては違法薬物ではないらしいんですが依存症状がでるかもしれないと書かれていました。昨日、カフェバーで口にした〝サプリメント〟の名前は確認されましたか……?」
冷えきって微かに震える手がすがるように音弥の腕を掴み、お互いに血の気の引いた顔色で見つめ合う。
「ただのサプリメントだって言ってたけど、俺が“味”に驚いた時、〝フォーク〟だと判ったようだった」
「……二度と行かないようにしましょうそれから一応今日の病院で検査してもらいましょう」
「そうだな」
ゾッとする話だ。
もしかしたら完全犯罪者の巣窟に出向いた可能性があると思うと生きた心地がしない上に、知らない間に怪しい〝サプリメント〟を食べさせられた可能性まで出てきた。
「姉さんが、もしもこれを調べていたら……」
「不用意に近づけばなにかしら対処される可能性はありますが……確実に調べていたかはわかりませんから」
最優先事項は、カフェバーに近づかない、病院で検査をしてもらう、これ以上首を突っ込まないことだろう。
「ごはん、冷めたから温めなおすよ」
「すみません、すぐに支度をします」
意識を切り変えるように、柏手を打って音弥がキッチンに戻っていき、光鶴も倣うように資料から視線を外したが、なにかが気になった。
「……、……あ、これもう一ページある」
資料内容は終わっているのに最後のページがまだ有る事が違和感だったのだ。
「……っ!!」
最後のページにあったのは──
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