受験

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受験

 佐々木由美子はごく普通の小さな家に三人家族で住んでいた。  父親の佐々木龍之介はコンピュータ関係の仕事をしていた。  母親の留美子は隣の家に住んでいる自分の母と自分の父の工場で一緒に働いていた。  小さなネジから大きなネジまでお客様の注文通りのネジを作るのが工場の売りだった。  祖父と祖母の工場はそこそこ大きな工場で見た目にも儲かっている事が由美子にはわかっていた。   由美子が学校から帰ると祖父の佐々木潤と祖母の佐々木雪は由美子に必ず声を掛けに由美子が住んでいる隣の家まで来ておやつを渡しに来てくれるくれる優しい祖母と祖父だった。  父は婿養子なので母方の佐々木と言う苗字を名乗っている。   父も母もそして祖母も祖父も由美子の事をとても大切にしてくれた。   由美子自身も祖父と祖母の事がとても大好きで身体の事を気にかけていた。   「おばあちゃん、おじいちゃん腰大丈夫?」  「大丈夫だよ。今、湿布貼ってるからね。それより由美子は高校三年になったんだろう?大学行くのか?ばあちゃん達の工場を継ぐ気はないか?立派な工場だろう?充分生活できるくらいの蓄えはあるしね〜もう、ばあちゃんもじいちゃんも歳だからね。若い由美子に譲りたいと思ってるんだよ」 由美子は「まだ進路考え中。働くか?大学か?」  「そうか、そうか、じっくり考えてな。人生は一度っきりだからね。工場を継いでくれたらこんな嬉しい事はないけどな。今度もっと工場を増やそうと思ってるんだよ」  「そうなの?凄いね。継ごうかな?考えとくね」  こんなたわいない会話がこれから先もずっと続くものだと由美子は思っていた。  父龍之介も母留美子もこんな日常が普通の暮らしがずっと続くものだと思っていた。   「由美子〜働くか?大学かどっちでもいいけど今は勉強しなさい」 母の声が聞こえた由美子は「はい、はい」 そう言って自分の部屋に戻って行った。   この普通の暮らしが出来なくなる日が来る なんて由美子も父の龍之介も母の留美子も考えた事もなかった。   佐々木家の運命を変えたのは工場にネジを注文しに来た一人のお客さんの一言だった。 この一人の男性が来た時から佐々木家の運命の歯車が少しずつ狂っていく事になる。
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