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私の違うところ
ずっとそばにいる人のちょっとした変化に、あなたなら気づくことができるでしょうか?
髪型が突然と変わることがあるでしょう。着ている服装がいつもとは雰囲気が違っていたり、仕草が変わっているなんてこともあるかもしれません。
恋人という関係であれば、気分が優れない日があれば、逆に乗り気な日もあったりするでしょう。
「おはよう」
大地は高校の三年生になったばかりだ。大学進学を控えた彼には、受験が待ち構えている。
黒い髪は爽やかに流れて、制服のブレザーはボタンを止めることなく、隙間からネクタイがひらひらと踊っている。背は平均的男子というべきなのか、背を比べてみれば、彼はクラスの中間付近に位置するだろう。
「あ、おはよう〜」
そんな彼が声を掛けたのは、隣のクラスに在席する女子生徒だ。
彼女の名前は詩織。朝日に照らされた茶色がかった髪の毛は、何もしなければ腰に到達するほどの長さで、歩く度に左右に舞う。ブレザーだが、こちらはボタンを止めて、スカートは膝より少し上ほどの丈にしている。背は彼の肩より少し上くらいと言ったところだろう。女子生徒のなかではどちらかと言うと高い部類になるだろう。
「お、今日は髪型が違うね」
「大正解!」
では、二人の関係はというと“友達”ではない。彼らは恋人同士の関係である。本人たちとしては噂のように広がってほしくないと思っているらしいが、残念ながらそれぞれのクラス内では有名なお話。
もう諦めているのか、気にしていないだけかもしれないが、最初は人目を気にしていた二人も1年ほど経った今では何処でも仲良く会話をしている。
「正解って……、いきなりポニテになんてなったら驚くでしょ」
「これはわかりやすかったか。今度はわかりにくくしようかな」
普段は背中で広がって綺麗に流れている髪の毛が、ローポジションのポニーテールになっていれば、わかりやすい変化であろう。雰囲気もどこか大人っぽく見えるような髪型だ。
「分かりにくくても気づくよ。どんな変化でも」
「それはそれは、いいこと聞いたっ!」
車の行き交う大きな通り沿いで、信号機に阻まれながらも学校へと向かって行く。
その最中で、彼女は時々うなじを気にするように手を添えることがあった。慣れていないポニーテールで幾重にも重なった髪の毛が、一歩一歩身体を揺らす度に当たるのが気になるのだろう。
「いいね。ポニーテール、似合ってるよ」
「ありがとう。でも、ちょっと慣れないから悩むかなぁ」
詩織は嬉しそうにその場で回転して見せる。束ねられた髪の毛がリボンを回すように宙を舞った。
「ねね、今度の土曜日とか空いてる?」
「空いてるよ」
「遊びに行かない?」
「いいよ」
恋人の変化は多種多様――。
この物語は仲良し恋人二人の物語である。
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