二人だけの空間

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二人だけの空間

 楽しいデートはあっという間を終わりを告げて、5月29日、月曜日となれば勿論登校日である。 「おはよう」  今日は大地は生徒会の仕事により朝早く登校していたため、二人並んでの登校とはならなかった。一方の彼女はというと、登校時間の終了間際に滑り込むように登校してきていた。 「今日は遅いね」と周りから笑顔で言われた彼女は、「少し寝坊しちゃった。月曜の朝はなかなかきついね」と笑いながら返していた。 「月曜日かぁ」  そんなことは知らずに、月曜日の朝から生徒会の仕事で書類作成や打ち合わせを行って不服そうな大地だった。  窓の外には青い空。しかし快晴ではなくて、西の空を見ればうろこ雲が広がっていた。 「あ、いたいた」  一日の授業時間を半分過ぎれば昼休み。弁当用の保温性が高い袋を机の上に取り出すと、隣のクラスの彼女が近づいてきたのだ。はじめの頃は視線が集まることがあったが、今では“普通”と認識されて特に注目されることはない。 「朝寝坊しそうになったんだよ〜」  彼女は彼の前の席にある椅子を反対に向けて、彼の机で昼食が始まる。様々な話題が飛び交いながら、時間の感覚は加速していく――。 「放課後はまた生徒会?」 「すまん、まだ仕事が残っているから」 「忙しそうだね。でも気にしないで、 」  教室の窓際にて、二人だけの空間と共に机の上に広げられた弁当達は少しずつ姿を消して行く。  白く染めるお米達と、振りかけられた海苔や卵のふりかけ。弁当箱の隅に収められたコロッケは頭を突き出して存在感を主張している。身体を貫かれているブロッコリーを始めとした詰められた野菜達……。   「あっ……」  二本の箸で掴んだウインナーが、空中で離れてしまってお弁当箱の中に落下して行った。 「はははっ。生きてたな」 「箸の使い方下手になったのかも」  そんな笑顔溢れるイベントがありながらも、時間は止まることなく過ぎていくのである。  時間を見ずに話をしていると、いつの間にか予鈴が鳴り、現実に戻されるように詩織は教室へと戻るのであった。
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