楽しい時間に

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楽しい時間に

 6月3日。  今日は何だが複雑な気持ちであった。詩織が風邪で休んでから、アプリで話していたとしても彼女が体調不良となれば心配にはなる。  “大丈夫”という文字を見て少し安心してはいるのだが、実際に会ってみないと不安が心の何処かに残ってしまった状態だ。 「行ってきます」  扉を開ければそこは眩しい光の世界。  前と同じような時間帯で今度は駅前で待ち合わせしようということだった。 「お、いたいた」  大地が歩いて駅に到着する。  ロータリーにはバスや送迎の車が止まっており、その奥には中へと続く階段が設けられている。  そんな階段に視線を向けて、支える柱の横には服装の女子が1人。片手でスマホを握り、その画面に視線を落としていた。 「悪い遅くなったか」 「ううん?そんなことないよ。私が早く来ちゃっただけ」 「そうか」と近くにある時計の時間を見れば、約束の時間より30分ほど前になっていた。 「でも、すまないな。待たせて」 「全然、さっき来たところだから。逆にこんなに早く来るなんて思ってなかったから早く来て正解だったみたい」  身を屈めて、下から覗き込むような視線で彼を見つめる詩織。その視線に負けてしまい、顔が赤くなるのを隠すように背ける大地。 「そ……そりゃ、早く来るに越したことないだろ?」 「ふふっ。そうだねぇ」  しばらくして心が落ち着いた大地は、詩織の方に再び視線を向けて、髪型から服装までを見る。 「この前と同じ服装だな」 「さすが、覚えているね!この服、結構お気に入りだからね」 「似合ってるよ」 「嬉しい!ありがとう」  駅から電車に乗って隣町。  二人は仲良く街を歩くのだ。その街にしかないお店に立ち寄っては、二人で笑い合って大地の手には少しずつ荷物が増えていく。飲み物を買っては二人で仲良く飲んで時は過ぎて行く。 「そろそろ休憩でもするか?」  前回出掛けたときのことを気にしているのか、大地は体力のない彼女を気遣ってそんな提案をした。 「ううん。大丈夫!なんか今日は身体が軽くて、全然平気だよ!楽しいからかな?でも前回も楽しかったし……、とにかく大丈夫!」 「そう言うならいいけど」 「ほら、他のお店行こう!」  午前中は街を歩いてお店を巡ってみた二人。いつもの街では見ないお店や食べ物を楽しんで過ごす。午後は落ち着いて二人で映画を見たり、ゲームセンターに行って遊んで過ごした。 「帰りどうする?」 「ん〜、そうだね。次の電車で帰るのはどう?」 「30分後かいいよ、それで帰ろうか」  楽しい時間というのはあっという間に過ぎてゆく。雨が降ることもなければ、ハプニングも起きることのないお出かけを楽しんだ二人は、それぞれの家へと帰って行った。
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