君は気づけるかな

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君は気づけるかな

「これは……ノートか?」  彼女の机に近づくと、その椅子の上にはノートが残されていた。何かの拍子に机の中から落ちて、椅子の上に乗ったのだろう。     “楽しい楽しい日記”  表紙にはそのように書かれていた。  日記に首を傾げながら、教室の入り口や中を見渡して誰もいないことを確認すると、窓際の夕日差し込む場所で読み始める。  “5月” 「あ、去年から書いていたのか」  その日記には去年の日付から始まっていた。5月となると初めて出会った時からになる。 『楽しい楽しい私の日々が始まった日。私にはずっと気になる人がいたのです。隣のクラスの男子生徒。誰と書くのは、もし読まれてしまった時に恥ずかしいので、書かないけど、なんと!そんな人から告白されるなんて……』  それが自分のことを書かれていると思うと、顔が真っ赤になってくる大地。 「あ………そうだったな。公園で、なんで公園だったんだろう」  彼はページを捲ってゆく。 『今日はデート!緊張したなぁ。ずっと肩に力入っていた感じ?彼の歩幅が少し大きくて、揃えるのが大変だったかも?それとも、私の体力がないだけなのかもしれない』 「緊張したなぁ俺も……つい、歩幅大きくなったり、真っ直ぐ歩けなかったり……」  そんな日記を1ページずつ読んていればかなりの時間が掛かるだろう。そこで、一気に捲って最近の日付を見てみることとした。  “5月4日” 『今日はいつもより症状が酷くて、歩くにも苦労します。病院で検査を受けましたが、対処方法がないと言われました。みんなは休日を楽しく過ごしているんだろうなぁ……彼も……』 「症状?」  大地の身体が固まる。  病院や症状という文字を何度も見直して、「どういうことなんだ?」とつぶやく。  “5月16日” 『今日はかなり調子がいい。身体も軽いし登校だって休まずに歩いて来ることが出来た!良くなってきているのかもしれない!』 「病気なのか?」  そんなことには気づかなかった。彼女が隠していたというのもあるが、彼の頭は増々混乱してくるのである。  “5月27日” 『久々に二人でデート。流石に体力が減っているのか、途中で休憩させてもらったりしながら街を歩いた。すべてが始まったあの公園にも行けたし、病気を忘れることのできる楽しい時間だったな』  運動が苦手で体力がなくてというのは、本当でもあるが病気を隠すための言い訳であったのだろう。  “5月28日” 『昨日無理しすぎたのか、今日は身体が動かなくなって……。向き合っていくしかない言われてから半年くらいだけど、自分の身体が動かなくなってきている。でも、家族以外には気づかれたくない。頑張れ、私』  少しずつ彼女の身体は悪くなっていた。この日は歩くことで精一杯という状態で、一日寝ていたらしい。 “5月29日” 『一日休んだからなのか、身体が軽い。でも体力はいつもよりなくて、ゆっくりと投稿していたら遅刻しそうになってびっくり!彼が生徒会の仕事で早く学校に行って、帰りが遅くなるので、気づかれたりすることがなさそうでよかった』  それでも彼女は登校をする。一番は誰にも気づかれたくないからという思いが彼女の心と身体を動かす原動力となっている。 “5月30日” 『最悪だ。朝からかなり辛い。全身が思うように動かなくて、痛くて痛くて、息苦しい。でも、歩けないほどではない。お母さんは心配していたけど、頑張って登校してきた私。偉い。でも流石に無理し過ぎかな』  朝から息苦しさまで襲ってくる。両親は体調の悪さで登校を反対したのだが、彼女はその反対に逆ギレするようにして登校する。 “6月1日” 『朝から、全然、身体、動かない。文字、書くのも、やっとで、病院に、運ばれてきました。学校には風邪で、ということで、配慮は、してくれました、夕方には担任の先生が、来てくれて、頑張れって、言ってくれました。彼から心配の、メッセージが、きたけど、大丈夫、きっと、治るから、頑張れ私』 「ここまでか……」  そこで日記は終わっていた。  風邪というのは全くの嘘で、彼女の身体は病気と戦っていたことに気づいた彼。でも、遅い。 「な……何だよその嘘はっ!気づかない……何故気づけなかったんだ……」  彼は涙を零す。  辛いなら行ってほしかったこと、病気と戦っていても見せてくれた笑顔を浮かべると目の前が歪んでゆく。日記を閉じて、何でも変化に気づいてみせるよという自分の言葉を後悔する。そして自分に対して怒るのだ。
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