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──痣を持つのは〝喰われる者(ケーキ)〟、痣をつけるのは〝喰らう者(フォーク)〟。
お前は痣をつけられたら駄目だぞ──
幸せな同性婚をした兄から言われた、いつかの言葉が残響した。
現在、呆然自失している義兄・十日町燕(とおかまちつばめ)から、葉桐俊哉(はぎりしゅんや)が呼び出されたのは、夜十時少し前。
深夜でもないが、普段家から出ない時間の呼び出しに驚きながら同じマンションの一階下にある兄の部屋に来たのは、恐らく十五分前。
真夏のうだるような暑さの夜なのに、兄の部屋のドアを開けると、冬のように冷たい風が部屋から吹き抜ける。
驚きながらシャワー音のする風呂場へ向かうと、濡れたクッションフロアの床に座り込み、
呆然として──なんで、と呟いている義兄を見つけた。
何に驚いているのかと思いながら、義兄に声を掛けようとした瞬間、俊哉の視界に目を疑う光景があった。
「……にぃさん?」
浴室の浴槽一面に浮かんだ、薔薇の花のなかにあるモノが、男の首と、義兄との契約紋印が刻まれている二の腕だと、脳は理解するが心が追い付かず現実を拒絶する。
「どんな格好で、寝てるの……? 風呂で寝たら危ないって、燕さんもいってるじゃん……っ」
眠っているような表情で、二度と目を覚まさない兄・十日町颯人(とおかまちはやと)の首が浮かんでいた。
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