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教会から出ると、六月の柔らかな日射しが、私の目を優しく貫いた。
今日は何もかもが、眩しい。
教会のステンドグラス、友人の耳に輝くパールのピアス、気が早い母の涙。二人で選んだお揃いのシルバーリング、そして、隣に立つあの人の、喜びに満ちた表情。
今日は私たちの結婚式だ。
純白のウェディングドレスの裾を引きずり、私はあの人と並んで、白い小道をゆっくりと歩く。家族や友人たちが投げ上げるたくさんの花びらが、私たちの頭上に降ってくる。
ひらひら、ひらひらと、まるで、天使の羽のように。
完璧な、祝福の時間。
ああ、雨でも降ればいいのに。
私は目を細めた。
眩しすぎる。
あまりにも全てが出来すぎていて、私なんかには荷が重い。せめてこの煩わしい日の光だけでも、どんよりした雲が覆い隠してくれたら。透明な雨の雫が降り注いで、この完璧すぎる時間に、少しでも傷を作ってくれたなら、私はきっと普通に、幸せに浸れる気がする。
雲一つない、淡い水色の空に、細かなフリルの花びらが舞う。
優しい日射しが、白い小道を照らしている。
素直に喜べない自分に、嫌気がさす。
白い小道の先、私たちは家族と友人を引き連れて、よく手入れの行き届いた庭へとたどり着く。美しい緑の芝生と木々、白い教会を背景に記念写真を撮るのだ。
皆が楽しそうに笑っている。私もあの人と一緒になって笑う。
土砂降りにでも、なってくれないかな。
そんな考えが、頭を横切る。
違う。これは本心じゃない。私はただ、臆病になっているだけ。大きすぎる幸福を前にして、怖じ気づいているだけ。そうに決まっている。
あの人が満足気な顔をして、私の耳元に唇を寄せる。
「天気が良くてよかった。いい思い出になるね」
何の躊躇いもなく、幸せそうに微笑む大切な人。
眩しくて、怖くて、とても目を開けていられない。
「そうだね」
私は愛している人に、平気で嘘をつく。
雨は降ってくれそうもない。
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