デート

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 会社は八時から五時までだ。時計を見ると五時五分前だった。一日が終わるのは早い。美知はこれからスーパーへ寄って夕飯のおかずを買わなければならない。今夜は何にしよう。  レインコートを着て自転車に乗る。スーパーは通勤路沿いにある。平日は簡単なものにしているが惣菜というわけにいかない。夫の機嫌が悪くなってしまう。  鶏肉とレンコンとゴボウに蒟蒻を買った。干しシイタケと人参は家にある。筑前煮を作ろう。夫が帰って来るのが八時だから味はつくだろう。後はなめこの味噌汁に温泉卵でいいか。  レジに並んでいると長野がいた。隣のレジで買い物かごを持って並んでいる。いつもは残業なのに珍しい。美知は声をかけようか迷った。そんな美知に長野は気が付いたみたいで目が合ってしまった。美知は「長野さん、珍しいですね」と言った。長野は困ったように笑った。  会計を済ませ、台の上で買ったものを袋に入れる。今度は長野が話しかけてきた。 「塚田さんに恥ずかしいところを見られちゃったな。会社では内緒にしてくれる?」  恥ずかしいところって買い物か。美知は誰にも言うつもりはなかった。 「はい。言いませんよ。今日は残業なしですか?」 「ああ、塚田さん。お茶する時間ある?」  いつもだったら少しはあるのだが今日は筑前煮だ。早めに作らないと材料に味がつかない。 「今日は忙しいんです。明日だったら。あ、でも長野さんは残業ですよね」 「塚田さんがお茶してくれるんだったら残業しないよ。明日、国道沿いの『M』で待ってる」  長野はそう言って重そうな買い物袋を持って去っていった。明日お茶することは夫には言わないでおこう。
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