これが愛ならば※ 【完】

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これが愛ならば※ 【完】

 「そんなにニヤニヤしちゃって。はしたないですわ、アンドレア。」 そう呆れた様に僕に小言を言うのは勿論マチルダだ。でもマチルダもそう言いながら、目はキラキラと光って獲物を逃す気は無いみたいだ。 「そんなにニヤニヤなんてしてないでしょ。少なくとも今は淑女なんだから。」 そう僕が答えると、マチルダはついと長椅子の距離を詰めて来た。こんな時のマチルダは容赦がない。 「銀の貴公子である侯爵令息は、氷の騎士とあだ名が付くくらい、令嬢達に剣もほろろな冷たい態度で有名でしたのに。そんな風にアンドレアがうっとりするなんて、噂なんて嘘ばかりですわね。それともアンドレアだけが特別なのかしら。」  僕はマチルダから少し距離を取って、誤魔化す様にカップを手に取って唇に運んだ。薄い陶器の繊細な縁が、僕を微笑みさせる。 「何?なんか意味深ですわ?」 まったく色々鋭いマチルダに掛かると、誤魔化しきれない。 「…別にたいした事じゃないよ。エルは色々気が効くってだけ。あの人、ちょっと怖いくらいに僕の事見てるんだ。このカップも店で僕が綺麗だなと思って見ていただけなのに、次の日にはお茶の時間に用意されていたんだから、流石にやり過ぎだろう?」  マチルダは呆れ顔で僕を細めた眼差しでジロリと見つめた。 「ご馳走様ですわ。でも私が聞きたいのは、そんなどうでも良い惚気話じゃないのですわ。…ラファエル様がどれだけその、愛してくださるかですわ。ふふ、どうなんですの、アンドレア。親友の私には教えて下さるわね?」 僕は結婚してひと月の、この蜜月を思い起こしていた。侯爵家の別棟が僕たち夫婦の館に用意されたものだったけれど、ラファエルがそう指示したのか使用人は用がなければ本館に居るので、僕は伸び伸びとしていられた。    淑女らしく振る舞わなくて済んだので、僕はちょっと弾けてしまったみたいだ。だからマチルダに言える事など何も無かった。きっと知ってしまったら、さすがのマチルダも目を丸くして、全部聞くまで帰らなくなる事が分かり切っていたからだ。 「ラファエルは優しいよ。僕の願いは全て叶えてくれるからね。こんなに楽しいのなら、結婚も悪くないって思う。学院は一年間しか行けなかったけど、まぁ納得しているよ。」  マチルダが帰って、使用人達にかしづかれながらラファエルと蝋燭のゆらめく中、今日の一日を話しながら晩餐が終わると、使用人達は明日の朝まで本館に戻って、ここに人の気配は無くなった。 僕はラファエルにドレスを脱がされて下着姿のまま、バスタブにいれる入浴のオイルを選んでいた。振り向くと美しい銀色の瞳をきらめかせながら、ボウタイを外していた。 「ラファエル、脱がせるのは僕にさせてくれるって言ったでしょ?」 そう言いながらラファエルのシャツのボタンを外していると、ラファエルはため息をつきながら僕の二の腕をそっと撫でた。  「そうは言っても、アルのそんな色っぽい後ろ姿を見たら、我慢など出来ないだろう?その下着どうしたんだい?とても美しいね。」 僕はお尻の中心がハート型にくり抜かれているショーツを下着専門店に注文した時の、店主の驚いた顔を思い出してクスクス笑った。 「これを見るのはエルが一番最初だよ?僕が注文して作ってもらったんだから。もしかすると流行るかもね?気に入った?」 シャツを自分で乱暴に脱ぎ捨てたラファエルが、我慢できない様に僕をひっくり返して、僕のお尻をまじまじと見つめていた。僕はエルを驚かせた事に喜んだものの、これが一体どう言う事になるのかあまり深くは考えていなかった。  僕を陶器のバスタブに掴まらせると、エルは床に跪いておもむろに下着から飛び出したお尻のてっぺんに唇を押し当てた。それがスイッチになったんだろう。僕は下着がぐっしょりになるくらいエルに焦らされて、愛撫された。 震えるくらい興奮してしまった僕にエルは言った。 「アル…、私のこれを可愛がってくれるかい?」 全裸になったエルはいつ見ても彫刻の様に美しい筋肉美だ。僕は見せつける様に手で撫でられる昂りから目を離せなかった。 空っぽのバスタブに横になったエルに重なる様に跨った僕は、むせかえる様な雄の匂いのそれを楽しい気持ちで口づけた。エルの味は好きだ。僕とひとつになりたくて雫を滴り落とすそのぬるみも。 張り出したその凶悪さも、それがもたらす快感を思い出せば只々愛しいだけだ。僕はふと顔を上げてエルに尋ねた。 「もしかしてエルは僕を快感で堕としたのかな。」 するとエルは悪巧みがバレた様な表情で笑って僕を胸の上に引っ張り上げた。  「さぁ、どうだろうね?アルが気に入ったのが快感だけじゃないことを望むけど、私の身体を気に入ってくれたのなら言う事はないよ。奥様、そろそろちゃんと湯船に浸かって、もっと良いことしようじゃないか。」 ゆっくり溜まったお湯は少し冷めてしまっていたけれど、そんな事はすっかり熱くなった僕らには関係なかった。お互いを撫でる様に洗い合うと、すっかり待てなくなって、僕らは泡を落とすのもそこそこで、ベッドへと走った。  「僕が先だ!」 そう言って僕がベッドにダイブすると、エルが僕の足首を掴んで僕にのしかかって来た。 「本当に私は幸せ者だよ。毎日こうして(ナマメ)かしい奥様と追いかけっこも出来るんだから。さあ、捕まえた獲物をどう鳴かせようか。」 僕はエルの首に手を掛けて引っ張ると、唇を合わせて囁いた。 「エルが僕に鳴かされるんじゃないの?僕、美しい男が悶えるの見るの好きだよ。」 僕たちはクスクス笑って、ベッドを軋ませた。ああ、こんなに楽しいなんて、エルの事怖いって思っていたのも嘘みたいだ。僕がありのままのアンドレアで居られる、それが奇跡だって僕は良く分かってるよ。 いつも以上の絶頂に追い立てられて、僕はエルにしがみついて切れ切れに叫んでいた。 「エルっ、愛してるっ!でも、もう死んじゃうっ!」  脱力した身体を投げ出した僕の汗ばんだ胸にエルが顔を寄せて、うっとりと匂いを吸い込んで言った。 「私の匂いが移ってる。それってなんとも言えない嬉しさを感じるよ。アルが絶頂で叫ぶ愛の言葉もね。」 僕はそう言いながら顔を近づけたエルの、長い銀髪を指に絡めて重くなった瞼を持ち上げた。 「…浮かされて言ってるわけじゃないよ、エル。本当にエルを愛してる…。」 少し固まったエルが、息を吐き出して顔を顰めた。 「…不意打ちとは狡いね。私の胸はアルへの愛しい気持ちではち切れそうだ。私も永遠に君を愛すると誓うよ。愛してる、アル。」 僕たちはまるで結婚式の誓いの口づけの様に、唇を押し付け合った。                 【 完 】 無事完結しました♡良かった~(*´◒`*)  中身が男認識な令嬢が本当の愛を得る事が出来るのかをテーマに書きました。性別を超えて本人そのままを愛してくれる、ちょっと変態くさい(と思われようが)、一途に愛情を伝えて守ってくれた許嫁のラファエルに軍配が上がりました。 問題を抱えながらも、まっすぐな男らしい?アンドレアを欲望で堕としてしまったのは、エルにも一石二鳥でしたw また作中のシドとマチルダ兄妹が、アンドレアをしっかり支えてくれていたキーマンだった気がします。 気楽な気分で読んで楽しんで頂けたのなら嬉しいです♡ ゆっくり更新でしたがお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました(〃ω〃)  最新作『竜の国の人間様』、一応BLですが、主人公が幼児スタートでほのぼのしかしてませんが、癒されると好評なので是非覗いてみて下さい♡よろしくお願いします!
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