雨女

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「その日家にはお母さんはいなくて、私とお父さんと、もう完全にボケて私のことを忘れたおじいちゃんの三人だけだった。トイレから出た時に、急にお父さんから襲われたんだけど、全く予想してなかったことで、優しかったお父さんが私をエロい目で見てるなんて考えたこともなくって、理解できないまま服を脱がされた。ただ怖くて、痛くて、処女だったからアソコから凄く血が出てきた。しかも、ビデオを撮られてたみたいで、今にして思えばお父さんは、お母さんが外出する隙を狙って私を犯そうってずっと決めてたんだろうね。私はたくさん泣いて、今までの楽しかった思い出とかが全部消し飛んじゃうくらいに絶望して、もう死のうかと思った」 「それからの私は、お父さんからレイプされたことは誰にも言えずに、学校にも行かずに、死人みたいに過ごしながら、今まで以上に強く雨を望むようになってた。また土砂降りに打たれて、体がバラバラになれば、嫌なことは全部忘れて、ただボーッと気持ちよくなれる。私がその時に死ななかったのは、たぶん雨のおかげだと思う。今はまだ死なずに、とりあえず次の雨を待とうって、そのことしか考えてなかった。そのおかげで、今もこうして生きてるんだと思う」 「ただ、そんな時に限ってなかなか大雨は降らずに、確か一ヶ月以上は待ったかな。この時ほど、外れる天気予報に怒り狂ったことはないと思う。天気予報士を殺してやろかとも思って、それくらい、今までにないくらい、私は雨を待ってたんだ。だから久しぶりに大雨になった日はとにかくすぐに打たれたくて、家の裏庭に裸足で出ていって、私の体はボロボロに崩れていった。まず雨が触れる体の表面が崩れていく。髪の毛も、眼球も、耳も鼻も、舌べらも、ポロポロと体から溢れていって、そのうちに内臓とか骨まで細かくなって地面に落ちて、肉体全部が一センチくらいのカケラになると、戻ってきたって私は思った。普段は堰き止められてる思考がその時はスーッと遠くまでいけて、何にでもなれそうな気がしてくる。滝みたいに、いろんな考えが頭の中に勢いよく入ってくる。その時の私は、確かプランクトンから人間に至るまでの進化の過程を頭の中で辿ってた気がする。流れの遅い川に身を委ねてるみたいな感じ。ふわふわの雲に全身を包まれてるような感じ。やっぱりうまくは説明できないけど、私の気分はとても良かった。数時間後に雨が止むと、タバコの匂いがした」 「家でタバコを吸うのはお父さんしかいないから、雨が乾いて少しずつ体が戻っていく中で、私はレイプされた時に感じた恐怖と痛みを思い出して、この時初めて、お父さんに対する憎しみみたいなものを覚えた気がする。お父さんは今、たぶんバラバラの私には気づかずに、雨が止んだから裏庭に出てタバコを吸ってるんだろうな、殺したいな。そんなことを考えながら、私の散らばった肉片は、お父さんの足元から、お父さんの体を這い上がっていった。お父さんがこの時どんな反応をしていたのかはわからないんだけど、私の肉片はペタペタとお父さんに引っ付いていって、お父さんの全身を覆うようにして、少しずつ私の体は戻っていった。私の体が全て元通りになった時にはお父さんは見当たらなくて、お父さんは私の体内に入ったんだって気づいた。それで、今もお父さんは、私の体の中で生きてる」  生きてる? 「そう、生きてる。私は確かに感じるの。私の肉片で、ぎゅーと圧縮されたお父さんは胎児みたいに小さく丸まって私の体内にいて、私の食べたものから栄養をもらいながら、確かに意識を持って、生きてる。そう感じるの」  それは、嫌なことじゃないの? 「ううん。私はお父さんを、自分の体の中であえて生かしてるの。きっとお父さんは、外に出られずに、死ぬこと以上の苦しみを味わってると思うの。これは私なりの復讐でね、お父さんは地獄のような気分を今も味わってるって思うと、嬉しくて仕方なくなる。あえてお父さんの嫌いだった食べ物を食べて、それを体内のお父さんに分け与えたりもしてるよ」 「私が十年間も雨を浴びてない理由はね、お父さんを外へ逃さないため。私の体がまたボロボロに崩れちゃったら、その隙間からお父さんが逃げ出すかもしれないでしょう? ちょっと濡れちゃう程度のことはあるけど、ビショビショにはならないように、凄く気をつけながら生活してるの。だから天気予報を必ずチェックして、雨が降りそうな時は絶対に外に出ないようにしてる。今日、あなたの家にいかないのも、これから雨が降りそうだからなの。ごめんね」
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