ロンドン塔の少女

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 山の中、緩やかな坂を上がっていくと、その先に“ロンドン塔”と呼ばれる洋館が見えてきた。煉瓦地の壁に、並んだ装飾的な窓ガラス、庇の付いた玄関ポーチは支柱に支えられ、屋根の中央には三角屋根の尖塔が建っていた。恐らくこれが、ロンドン塔の由来なのかもしれなかった。  旬は玄関ポーチを上がり、ガラス窓を覗いてみるが、カーテンが引かれており中を伺い知る事は出来なかった。柔らかい黒土を通って建物の裏側へ回ると、窓の下に二枚の鉄板が敷かれていた。周りが煉瓦で囲われていて、まるで地下への入り口にも見えた。  旬は頑丈そうな枝を拾ってきて、それを鉄板の隙間に差し込んだ。テコの原理で全体重を掛けて押し込み、僅かな隙間に靴をねじ込んだ。それから手を入れ、鉄板をどうにか持ち上げた。鉄板は錆び付いており、長年開けられていなかった事が分かった。  鉄板の下には両開きの窓があった。恐らく、この下は半地下になっており、窓は明り取りの為にあるのだろう。旬は下に降り、窓を開けようとガラス戸に手を付いた。力を込めて動かすと、十センチほどの隙間が開いた。中を覗くと、ぼんやりとした蝋燭の灯りが見えた。  次の瞬間、旬は思わず息を飲んだ。仄かな光に浮かび上がったのは、青白い少女の顔だった。
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