第1話

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 瑠璃子の今の楽しみと言えば、ネットの小説投稿サイトにアップされる、とある作家の小説を読む事だけだった。作家と言っても、プロではなく、趣味で書いて投稿している人のようだった。ネットの小説投稿サイトでは、そうした普通の人達が書いた小説が、無料でいくらでも読める。 瑠璃子のお気に入りの作家は、プロフィール写真が顔写真ではなく、恐らくその人の仕事場の机を写したものと思われた。 無機質なグレーの机の上に、ノートパソコン、そしてその上に、高価そうな万年筆が一つ載っている。万年筆=作家のイメージでわざと置いたのだろう。 写真の隅には、ペン立てや卓上式のカレンダーの一部が写り込んではいるが、 それ以外に特徴になるものは何も写っておらず、なんとも殺風景だ。 ただ一つだけ彩りがあるものがあった。ペン立ての横に、小さなガラス細工のラベンダーの置物が置いてあった。 その可愛らしいガラス細工は、その無機質なデスク周りには似つかわしくなく、かなり浮いて見えた。
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