妖精はそこにいる。

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 ***  人は、いつまでも子供ではいられない。  幼い頃と同じ遊びをずっと続けているわけにはいかない。それは確かなことだろう。ましてや多感な中学生、突然何かを恥ずかしく思ったり、ちょっと背伸びがしたくなるのも仕方のないことではある。  りっちゃんと最後に会った日から、私はずっと自問自答を続けたのだった。そして、考えた末決意したのである。  彼女が“恥ずかしい”と思わずに、世界を続ける方法はないものか。だって、私達の世界のフロマージュは、セレスは。 「りっちゃん!」  一週間後。  私は廊下で一人歩いていたりっちゃんを呼び止めたのだった。そして、彼女を人気のない階段の陰に連れ込んで告げたのである。 「私、やっぱり……フェアリーワールド、やめたくないよ!」 「ま、マイちゃん……でも……」 「だって、あの世界は私とりっちゃんしか知らない。どこにも発表してない。私達がやめたら……あの世界はなくなっちゃうんだよ?だって私達が創造主なんだから。あの場所でしか生きていけないあの子たちを、私達が消しちゃうんだよ。本当にそれでいいの?」 「……っ」  その言い方は卑怯だと、りっちゃんの顔には書いてあった。自分でもわかっている。でも、どうしても私も退けなかったのだ。何故ならば。 「フロマージュは、セレスとずっと仲良くしたかったの。でも、いろんな冒険を経ても、セレスと距離を詰める方法がわからなくて……何年も結局、二人は親友になれないまんま。ねえ、二人を友達にしてあげることもしないまま、終わらせていいの?私は絶対嫌だ。だって……フロマージュとセレスは、私達自身でもあるんだもん。私は、りっちゃんともずっと友達ていたいんだもん」  ズルくたって、なんと言われたってかまわない。これこそが、私自身の本心なのだから。 「ただ自由帳に落書きするのが恥ずかしいなら!じゃあ、大人もやるやり方で続けよう!」 「大人もやるやり方?」 「そう!フェアリーワールドを二人で小説にして発表するの!個人サイトでも小説投稿SNSでもなんでもいい。うまく書けたら、小説の新人賞にでも応募しちゃう!共作でも応募できる公募あるの知ってるし。……大人だって、想像の世界を練ってプロット練ってってのはやることでしょ?小説家になるため、ならなんもおかしくなんかないでしょ、恥ずかしくなんかないでしょ!?」 「…………!」  ものは考えようだ。それだけのことだとわかっている。  でもきっとりっちゃんには、それだけのこと、が想像以上に大きいことであるはずなのだ。  私は手に持っていたノートを開いてりっちゃんに見せた。自由帳に描かれていたのはフロマージュの絵。それも、生まれて初めて――色鉛筆でちゃんと着色した彼女の絵だった。  息を一つ吸い込み、私は声を作って語る。 「“フロマは、まだセレスちゃんと友達になれてないよ。友達になりたいよ。まだここで、生きてたいよ”!」  某魔法少女アニメを真似した、ヘタクソなアニメ声。子供のころからさほど成長していない、拙いイラスト。  それでもりっちゃんは、ちょっと泣きそうな顔で笑ってくれたのだった。 「……うん。これからも、よろしくね。フロマージュ」  妖精はそこにいる。  私達が世界を捨てない限り、ずっと。
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