妖精はそこにいる。

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「だって、あるわけないでしょ、妖精さんの世界なんて。あったらいいなと思うけど、そんなもの現実にないことなんて最初からわかってるし……。まるで魔法少女みたいなキャラ量産して、その世界に迷い込むのを想像して、冒険したりとかなんとか。子供っぽいじゃん。もうあたし達も大人にならなきゃいけないんじゃないかっていうか、なんかこう、黒歴史っぽいっていうか……」  段々と本人も何を言っているのかわからなくなっているのだろう。ぼそぼそと小さくなっていく声に、しかしそれでも言いたいことはおおまかに伝わってきたのだった。  何故なら私も、心のどこかでそう思っていたからだ。  小学生ならまだ、女の子の可愛い妄想ということで済んだかもしれない。でも、私達ももう中学生だ。自由帳にお絵かきをして、ありもしない異世界や妖精の妄想をして。人がそれを見たら、くすくすと笑われてしまうようなことなのではないか、なんて。  彼女と距離を取っていた理由は本当に部活が忙しかったからではあるけれど。その時間は確かに、お互いに冷静さを取り戻させるには十分ではあったのだ。  だが。 「……確かに、子供っぽいかもしれないけど」  私は迷った末、絞り出すように言ったのだ。 「でも、私……やめたくないよ。そりゃ、可愛すぎる趣味かもしれないけど……誰かに迷惑かけてるわけでも、なんでもないじゃん。悪いことなんか何もしてないし、そんな恥ずかしいことかな。絵を描いて、シェアワールドしてるだけなんだよ?」 「マイちゃん……」 「それでも、りっちゃんは……どうしてもやめたいの?」 「…………」  りっちゃんは、それ以上何も言ってくれなかった。きっと彼女も迷っていたのだろう。  彼女は気遣い屋だが、本当に嫌なことはちゃんと嫌だと言えるタイプだとわかっている。本気で黒歴史だなんて思っていたら、こんな躊躇いがちな提案なんかしてこないはずだ。きっぱりと、もう恥ずかしいからやめる、と宣言するはず。そうすれば私だって逆らえないのだから。 ――私達がやってるのは、恥ずかしいこと?でも……。  自由帳の白紙の上。  描きかけのセレスの顔は、なんだか泣いているように見えたのだ。
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