妖精はそこにいる。

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

妖精はそこにいる。

 これは、私が小学生だった頃の話。  当時同じクラスにいたりっちゃん――本名、貝塚莉恵子(かいづかりえこ)ちゃん。彼女が私の親友だった。  クラスに小学生離れしたオシャレな女の子がたくさんいる中、私とりっちゃんがやっていた遊びはなんとも子供っぽくて微笑ましいもの。いわゆる“シェアワールド”をして、物語を作って遊ぶというものだった。  そのシェアワールドの名前は、フェアリーワールド。名前の通り、妖精たちの世界である。 『私達が住んでいる世界のすぐ隣に、妖精たちの世界があって。彼ら彼女らは私達が気付かないうちに、この世界に遊びにきてよく悪戯をしてるの。そういうの、想像したらちょっと面白そうじゃない?で、選ばれた人間だけ、時々妖精の世界に連れていってくれるとか』 『いいじゃん、かわいいじゃん!』  きっかけは、りっちゃんが言い出したこんな言葉だったような気がする。  私達は真っ白な自由帳に、それぞれ妖精の絵を描いてキャラクターを作っていった。  私が最初に考えた妖精は、フロマージュ。音楽が大好きで、この世界のフルートの演奏に惹かれてしょっちゅう遊びにきてしまう。そして、気に食わない相手には頭からこっそり水をぶっかけてお仕置きしてしまうという妖精だ。ひらひらのスカートに、蝶々の青い羽根を持った女の子の妖精。私の絵はけして上手なものではなかったが、それでもりっちゃんは大層喜んでくれたのを覚えている。  そして、りっちゃんも可愛い妖精のデザインを考えてくれた。氷の妖精、セレス。彼女は本当はフロマージュと仲良くしたいのだけれど、手に触れたものを何でも凍らせてしまう性質のせいで人と距離を置いている。怒ると魔法が暴発して辺り一面を氷の世界にしてしまう――というのは、なんだかどこかで聞いたような設定ではあるがそれはそれ。  はじまりは、そのフロマージュとセレス、二人の妖精を主軸にした設定づくりだった。絵を描いて、彼女達の世界を広げて、次第にそれが物語へと変わっていったのだ。 『フロマージュは悪戯好きの明るい女の子だから、きっとセレスと仲良くしたいと思うんだけど。セレスは自分のことが嫌いだし、誰かを傷つけるのも嫌だからフロマージュから逃げちゃうよね。……どうすれば、二人仲良くなれるかなあ?』  私がそんな話をすれば、りっちゃんもうんうん唸ってアイデアを出してくれる。 『そうね。じゃあ、仲立ちしてくれる、他の妖精さんを考えてみる?あたし、フロマージュにはたくさんお友達がいると思うの。で、セレスのことも心配してくれるお友達が本当はいるのに、気づいてないだけだと思うのね』 『いいね!じゃあその子たちの設定も考えよっか!』  紙の上だけ、妄想の世界だけの小さな小さな遊び。  それでも私達は、本当に楽しかったのだ。面倒な宿題も、退屈な授業も、クラスの嫌な子のことも何もかも忘れられるほどに。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!