よろしく、よろしく。

2/4
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 ***  この幼稚園には、意味不明な規則がたくさんあった。特に、園長先生に関するルールが妙に多かった記憶がある。  そのうちの一つが今言った挨拶だが、他にもこんなものがあったはずだ。 『園長先生とお話する時は、必ず真正面からにしなさい。横にまわりこんだり、後ろから話しかけるようなことをしてはいけません。先生から話しかけてきた時も、あなたから先生に話しかける時もです』 『園長先生が“~をしてほしい”と言ってきたら、必ず他の先生に相談してください。一人で解決しようとしたり、無視したりしてはいけません』 『園長先生の悪口を、園の外でも中でも絶対に言ってはいけません。どうしても気になることや不思議なことがあって我慢ができなくなったら、紙に書いて他の先生に渡しなさい』 『これらのルールは、保護者の方にも必ず守るようにと言ってください。悪い子には罰があるかもしれません』  全部は覚えていないが、大体こんなかんじのルールが列挙していたと思う。  悪口を言うなと言われても、こんな決まりがたくさんあれば子供心にうんざりするのは仕方ないことだろう。  ゆえに、友達がこっそりこんな話をしていた覚えがある。 「きっと、園長先生って、この幼稚園を作ったすっごくえらいひとなんだよ。で、とっても“けんりょく”があって、先生たちもすぐクビになっちゃうから、みんな怖くてさからえないんじゃないかな!だれだって、おしごとはクビになりたくないもんねえ」  名推理!と彼女は笑っていた。実際それは当たっていたのかもしれない。幼稚園の先生は、結構入れ替わりが激しかったからである。  私は年少から年長まで三年間を幼稚園で過ごしたが、その間に覚えているだけでも二桁以上の先生が入れ替わっていた。大好きな“なつみ先生”が挨拶もなしに消えた時は流石に悲しくて泣いたものである。友達の話があったから、きっとなつみ先生は園長先生の機嫌を損ねてしまったのだろうと思われた。  また、その名推理を話した友達も、その話をしてから半月後くらいにいなくなった。きっと幼稚園から追い出されてしまったのだろう、とみんな心の中で思っていたはずである。誰もが口にはしなかっただけで。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!