よろしく、よろしく。

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 ***  幼稚園の変わったルール、というか行事は他にもあった。  それが、幼稚園の隣にある畑に“おいも”を埋める作業である。幼稚園はたくさん土地を持っていたようで、おいも畑もそのうちの一つなのだった。  大体一か月に一度くらい。私達は先生たちに呼ばれて、隣のおいも畑に行く。そして、先生たちに言われるがまま、がちがちに凍らせたおいもを畑に埋めるのだ。  これが、幼心に妙だなと思ったのである。  冷凍してしまったおいもを、あんなに地面の深くに埋めて、それで芽が出たりするものだろうか?一般的なサツマイモ掘りを経験したことのある人ならわかるかもしれないが、サツマイモというものは子供の手で掘ってもすぐ出てくるほど浅いところに埋まっているものである。それが、ハシゴが必要なほど深い深い穴を掘ってそこに埋める理由がわからない。これでは、おいもは地中深くに埋まってしまって、そのまま養分にでもなってしまうのではなかろうか。  それに。新聞紙でぐるぐる巻きにして、さらにビニールでがちがちに固めて埋めたらまったく意味がないような。まるで、おいもを封印でもしているような雰囲気でなんだか不気味だった。後になって考えれば、ビニール袋もビニールテープも人工物というものである。土に埋めたところで分解されるはずもない。幼稚園でも、ビニール袋なんかのゴミを捨てるのはやめましょう、なんて言われていたのに――どうしてここでは、ビニールに入れたおいもを埋めさせるような真似をするのやら。  さらに言えば、この時埋めるおいもが、毎回かなりのサイズなのも謎だ。子供が両腕でやっと抱えられるくらいの大きさ。一般的なさつまいもならば、こんなに大きいとも思えないのだが。 「皆さん、上手に埋められましたね?」  先生たちは、私達がおいもを埋めるのを観察していた。おいもを埋める作業以外、たとえばダンゴムシで遊び始めでもしようものなら激しく叱られたものだ。あれは観察というより、監視をしていたのだろう。すぐ傍には園長先生もにこにこしながらこちらを見ていた。先生たちは、その園長先生の目を何より気にしていたように思う。 「この大きな穴は、半年に一度埋めます。その時はまた皆さんに手伝ってもらうので、みんな動きやすい恰好をして来ましょうね」 「はぁい……」  このおいも掘りならぬおいも埋めが、私はどうしても好きになれなかった。  だっておかしいではないか。――おいもを埋めて、それっきりなのだ。案の定というべきか、その後収穫する気配もない。  せっかく埋めたおいもを、私達が食べれられるわけでもない。それなのに労働力として駆り出されることの苦痛。  ――今思い出せば。嫌になったと泣いたり騒いだりしなかった私は、大層賢い選択をしたのだと思うが。
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