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よろしく、よろしく。
これは、私が幼稚園児だった時の話。
今更思い出して怖くなったから、ちょっとだけ聞いてほしい。最近になって、あまりよくないニュースを聞いてしまったのだ。
これは、江口さん……貴女にも、そして貴女のお子さんにも無関係なことじゃない。私の話を聞いてからどうするか、その判断は貴女に任せたいと思う。
私が通っていたその幼稚園には、いくつか変わったところがあった。その最たるところが、園長先生だ。
園長先生や校長先生の話は長い、というのはどこでも言われることだと思う。まったく、どうしてああいう年配の先生たちはいっつも話が脇道に逸れてばっかりなのか。三つ話します、と言い出したら大抵三つで終わらない。何やら枝葉が増えまくり、最終的な着地点がまったく見いだせなくなる。そのおかげで、年配者の話は話半分に聴く癖がついてしまった。幼稚園から高校にいたるまで、偉い先生の話とやらはみんなそんなかんじだったからだ。
うちの幼稚園も例に洩れなかった。そして何が困るって、“園長先生のお話”をやるのが朝会の日だけではなかったということ。
毎日、帰りの会で“園長先生のお話”が発生するのである。
それがまた長い上に、意味がよくわからなくて眠い。うたた寝する生徒が多かったからなのか、私が年中になる頃には帰りの会で椅子が用意されることになった。園児を立たせっぱなしで何十分も話を聞かせるのがまずい、となったのかもしれない。あるいは、親御さんからクレームでも入った可能性があると思う。
園長先生は、ふわふわとした白髪の、いつもにこにこ笑っているおばあちゃん先生だった。年は多分、八十歳くらいだろうか。今思うと、幼稚園の先生を現役で務めるには、だいぶ年が行っていたように思う。
愛想はいいが、得体のしれない人だった。話が長いことと、妙な決まり事が多いせいでみんなにはあまり好かれていなかったというのもあるかもしれないが。
そう、彼女に関して、先生たちから徹底するようにと言われていたルールがいくつかある。それも、園児からすると“何のためにそんなことするの?”としか思えないようなことばかりが。
この“園長先生の話”の時もそう。
先生のお話が終わると、私達は必ず彼女に対してこう言いなさいと言われている。
「先生さようなら!みなさんさようなら!」
ここまでは普通。
他の先生から“絶対に言いなさい”と言われている文言が次のこれ。
「これからも、どうぞよろしくおねがいします!」
万が一これを言わないと、いつも優しい幼稚園の先生たちから凄い大目玉が飛んでくるのだ。
幼稚園の他の先生たちは、この園長先生のことを不思議なほどに特別扱いしていたのである。
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