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昏倒し、暴行された時間はきっちり就業時間内だった。片目は目蓋が腫れているのか見えず、手首と足首は黒く爛れ、電流を流されていたのか一部炭化している、見える範囲でも異常な怪我で全身痛いのに死ねないのが不思議だ。
「お疲れさまでした。本来ならここまで痛むことはなんですが、◯◯様のご希望で痛覚を残した〝ケーキ〟をご所望だったので丁度よかった」
鹿野が、満足そうに嗤う。
人間が傍にいる事で、舌を噛み切り死にたくなるのに顎も腕もどこも動かない。
「あぁ、もしかしてなんでここまでされて生きているのか不思議ですか?それは隠し味で入れていた〝サプリメント〟を服用していただいたからです」
飲み続けると痛みを感じにくくするんですよ、便利ですよね。と微笑んで何かを操作するのを視線で追う。段々と痛みを感じなくなっている事に気がついた。
「ぁ……?」
「先ほどお伝えした〝サプリメント〟を、バイト面接の時にお出ししたドリンクや賄いに入れていたんです。わからなかったでしょう」
鹿野の言葉が理解できない。
きっと驚いたり、怖く思うはずの内容なのに、音が耳を通過する。
「あぁ、もうおやすみされますか。そうですね、お疲れでしょうから、ゆっくりおやすみ
なさい」
やがて痛みも無くなり、全てが充実したような感覚に呑み込まれて、八乙女は眠りについた。
加圧パックのなかの輸液パックが空になったのを確認し、輸液管を取り外すと、鹿野は八乙女の脈を測り、料理長へと声をかける。
「料理長、あとは頼みましたよ」
「脳を先にお出しして、柔らかいところはステーキで。あとは処理と調理をして後日郵送ですね」
「えぇ、お客様も支度ができたようですので早めにお願いしますね」
「了解した」
よく研がれた鉈で首を切り落とし、額から真っ直ぐ皮膚と頭皮にメスを入れ、脳ミソを切らないように頭蓋骨を切り離した頭部を食用花でリムを飾った大皿の真ん中に置けば完成だ。
「活きがいいから食べる時に泣くかもしれんな」
余分な血を抜くために足を縛って逆さ釣りにしながら、内臓を手早く抜き取り水で洗い流す。
料理長は料理を取りにきたボーイに皿を手渡しながら説明した。
「お伝えします」
穏やかに微笑むボーイが客の元へと料理をサーブし、食べる間に次の調理を始める。
「……さて」
下準備は粗方されているとはいえ、素人のしたことで、電流の流しすぎで固くなった肉を外し、皮膚を剥ぎ取って部位毎に切り分けていく。
「お前も残念だったなぁ。こんなところに来ちまって」
〝一般人〟である料理長は〝ケーキ〟の匂いが判らないが、それはそれは美味しそうに食べる客の姿を見るのが好きだ。
「ステーキにするのはどこがいいかな……」
食材は余すところなく使う。
人間も内臓も食べれるところは調理し、皮膚はキレイであれば鞣して調度品や小物にする。最後に残った骨は──
「ご無沙汰です。骨、受け取りにきました」
「あぁ、もう一体分出るから少し待ってください」
「了解です」
──とある業者に回収されていく。
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