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駅からほど近く、飲み屋街や喫茶店の通りから少し入った道にあるという、──血を塗りたくったようなドアを開ければ、その先は悪魔の祝福を受ける場所。と揶揄される、血を塗りたくって半日ほど乾燥させたような赤と黒のドアの店の存在は、〝フォーク〟のなかでも、特別な紹介を受けた限られた人間に紹介された者しかしらない。
「いらっしゃいませ」
ボーイが声を掛けた。予約と名前を確認され、しっかりと手荷物検査をされてから中に通される。
「お客様は本日、〝羊〟をご希望でしたので、鮮度の良い〝羊〟を仕入れました。ご満足頂けるかと思います」
にこやかにショーウインドウと個室を通りすぎた場所にある、黒に近い深紅のドアを案内された。
「詳しくは中にいるスタッフよりお話させて頂きます。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
ボーイがにこやかにドアを開けた先には下り階段。地下へと下っていった先にはレンガの壁から鈴蘭のような壁ランプが明かりを灯す。
「あぁ、わかった。ありがとう」
〝GZ〟を摂取した〝ケーキ〟は痛覚が麻痺し、摂取量が多くなるほど意識の混濁が見受けられる。
多くの〝フォーク〟は、ショーウインドウに飾られた〝肉〟を選び店で食べるか、持ち帰るかを選択するだけだと思っていたが、要予約制、金額は倍ではあるが自分好みの食べ方をできる部屋があると知ったのは最近だ。
階段を下れば右手側に、アンティークのような重厚なドアを中から見計らったようにボーイが開けた。
「いらっしゃいませ。ご予約の◯◯様ですね、本日はご予約いただき、誠にありがとうございます。上の店とは違う規約がございますのでご案内と契約書へサインをお願いいたします」
にこやかに話を進めるボーイは、真っ黒な衣装と、マスクをしていた。
「……蝙蝠のようだな」
「えぇ、そうですね。なにぶんこの部屋ではこの衣装が一番良いので、ご不快でしたら衣装を上と同じものに次回から変更できますが如何なさいますか?」
「いや、いい」
「かしこまりました」
男が買ったのはボーイではなく、商品と時間と場所だ。見た目の印象が強くそのまま言葉になっただけで他意はない。
「では、こちらでお荷物と上着をお預かりします。ウェルカムドリンクと共にご案内と契約書へのサインをお願いいたします」
規約の大筋は上の店と同じだったが、地下で見たもの、聞いたこと、全ての情報流出、口外を禁じ、契約違反だと認定されたらペナルティが課せられること。これは店の客にも話してはいけないということ。
〝羊〟に対する取り扱いとして「骨折」「臓腑破裂」など、食感を損なう行為をしないこと。(行った場合は調理時間が長くなる可能性、一部不可食部位となる場合がある)
今後一切の行動は、自己責任で行うこと。
店が責任を取れるのは、〝商品〟の確保、調理、飲食、場所の提供、シャワー室の提供など最低限で最大限のサービスのみであると明記されているのを確認し、契約のサインをした。
「ではこちらへご案内いたします」
通されたのは防音のためか、分厚い鉄の板で作られたドアの先。〝羊〟とベッド、机と椅子、ソファーがある部屋。
「プレイに必要な物がございましたら、机の引き出しもしくは、ベッドサイドに入っている物をご自由にお使いください。その他ご要望がございましたら、確認いたしますのでお声がけくださいませ」
重いドアが閉じられれば自分と〝羊〟の呼吸しか聞こえない世界になった。
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