許しません!

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許しません!

 わたし――公爵の娘ルルーナ・ボスリックは7歳の頃から婚約者がいる。もう直ぐわたしは18の誕生日迎え、2つ年上の婚約者、伯爵家カサロ・クリスピーと結婚の話が上がっていた。    今日のお茶会の日に、式の話をしに来たはずなのに、彼はうわの空でちっとも会話にならないし、話も進まない。  だけど、わたしはちっとも慌てない。  その原因を、わたしは知っているから。    この婚約は今から11年前――公爵家のお茶会に来ていた2歳年上、伯爵家の長子カサロを気に入ったわたしの子供のわがままで決まったもの。バロルお父様は一人娘だからとわたしに甘く、伯爵家への支援と引き換えに婚約が決まった。    当時のあなたは「嫌だ」と泣いていた――そう彼には仲のいい、幼馴染の男爵令嬢メィリィ・ローリッテがいたのだ。  ――しかし、両家は没落寸前。  そんな彼らの元に公爵家から、婚約の話と支援の話が届き、喜んだカサロの両親は金の欲しさに、この婚約を受け入れた。 『カサロ、ルルーナお嬢様はお前にぞっこんだ、そこを上手く使いなさい』 『わかりました』  両親の悪知恵。    彼は両親に言われたとおり、自分を好きなわたしの気持ちを使い。あれが欲しい、これも欲しいと色々と買わせて。 『ありがとう、ルル』 『愛しているよ』 『君は、ボクの素敵なお姫様』 『わたしの王子様』  巻き戻る前のわたしはカサロの言葉に浮かれ、彼の喜ぶ姿が嬉しくて、言われた通り色々買って渡した。  しだいにその要求は大きくなる。だが、恋の熱に侵されていたわたしは気付かず……いずれ彼とは結婚するのだからと。お父様からいただいた領地、別荘の権利書まで彼に渡してしまった。 『嬉しい。ありがとう、リリ』 『別にいいの、二人のものだから』    バカなわたしのおかげで伯爵と男爵両家は裕福になり、規模は小さいが領地も手に入れた。時は経ち、結婚適齢期となったメィリィとカサロ――そして、わたしとの結婚の話が出てきが、お金を持った今の2人には邪魔でしかない。    だが、婚約の破棄したくても相手は格上の公爵家、こちらから断ることは出来ない。結婚した後で公爵家を乗っ取ればいいと考えたが。愛するカサロとわたしが結婚をすることをメィリィは嫌がった。 『カサロは私とだけ結婚するの』 『ボクだってしたいが……婚約の破棄できない』 『そうね、アイツと婚約の破棄が出来ないのなら、殺せばいいのよ』  なんて、安直な考え。  しかし切羽詰まった2人に、メィリィの案は輝いて見えた。わたしとの月に一度のお茶会の席に、メィリィお手製の毒入りのクッキーを、わたしに食べさせることが決まった。  その日、カサロが持ってきた茶菓子のクッキーを食べたわたしは……血を吐き、苦しんで死んだ。バロルお父様は怒り、その場にいたカサロを捕まえ問いただすと、彼は「今流行りの店で買った」とお父様に話した。  お父様はすぐ、毒入りのクッキーを作ったとして菓子屋を訴えた。もちろん無実の店主は「していない」と反論したに違いない。しかし一人娘を亡くしたお父様の権力によって、牢屋行きか……最悪の場合、死刑になるであろう。  この時、巻き込まれた無実の菓子屋の店主は……この国一番の魔法使いローレンの妹、チャシャが経営していた菓子屋だった。 (ローレンに頼み、巻き戻る前を見せてもらった。彼らは、どのように計画を立てわたしを殺したのか知りたかったのだけど……なんて、安直すぎる考え)  だけど、恋の浮かれていたわたしは気付かなかっただろう。  あの日、結婚式の話に浮かれていたし。  愛する彼が持ってきたクッキーだもの……喜んで食べた。  そして、次に目を覚ますと寝室のベッドで寝ていた。 『あれ? わ、わたし……いま苦しんで、死んだはずじゃ?』  すぐ近くの鏡を見て子供に戻ったと驚き、部屋に来たメイドに日付、自分の歳を聞いた。  ――7歳のときに戻っている。  どうせ戻るなら。カサロとの婚約前だったら良かったのだけど……すでにカサロとは婚約はしたあと。婚約に必要な契約書などの書類はすでに王家に提出済みだった。貴族が婚約破棄をする場合、理由を告げ、王家に申立しなくてはならない。  貴族の婚約は一度してしまうと、中々婚約破棄できない。だが一つ簡単に婚約破棄ができる場合がある……それは当事者のどちらかが亡くなった時。    自分達の力で、わたしと婚約の破棄できないと知った、カサロとメィリィはすぐに結婚したくて……わたしを殺した。  巻き戻ったすぐ、頭に浮かんだのは復讐。  堂々と毒入りクッキーを食べて、奴らを驚かして捕まえてやる。 『まずは図鑑が必要かしら?』    わたしは両親に気付かれないよう、子供の頃から毒になれることからはじめた。この婚約はわたしが強引に結んだかもしれない。愛する2人を引き裂いた、わたしに関しては自業自得だとしても。無実の菓子屋に罪をなすり付けた、あなた達を許さない。    ♱♱♱    月一度のお茶会。わたしの前に座り、興味のなさそうなカサロに、メイドが準備した紅茶をカップにそそいだ。 「カサロの好きな、紅茶をご用意しましたわ」 「そう、ありがとう」  巻き戻る前……話しかけるのはいつもわたしの方から。  恋に浮かれていたわたしは、カサロが「ああ」「そうだな」……二言、三言しか返さず、わたしの後ろに控えるメィリィを見ていた事も――そして、メィリィもまたカセロを見ていた事に気付いていなかった。  そして。   《メィリィ、今日も素敵だ》 《カサロもステキよ。終わったら、いつもの所で会いましょう》  と、2人で念話をしていた事も。  さすが魔法を使えるカサロ。でもね、わたしも巻き戻ってすぐ努力をしてきたの。だから、今この場で2人が念話している事にも、話す内容も聞こえているわ。 《ハァ……こんな、つまらないお茶会が早く終わらないかな。早く、メィリィと2人きりになりたい》 《カサロ、焦らないの。上手くソイツを殺して、お金を奪って私と一緒になりましょう》 《ああ、こんなバカな女とは結婚なんかしたくない。しかし……ボクが欲しいものをこの女に伝えても、最低限のものしかくれなかったな》 《ケチなんじゃない? まあ、ソイツが苦しんで倒れたらどさくさに紛れて、ソイツの部屋から宝石、金品類を盗んでくるから待っていて》 《うん。頼んだよ、愛しのメィリィ》 《フフ、愛しのカサロ》  愛する2人を引き裂いたのはわたし。  だけど……無実の人に罪を着せてまで、殺さなくてもいいじゃない。  ――まあ、今回は死んであげないけど。   『ドカクロ草……不味い、ミカル草……にがっ……』    何種類かの毒にもなれてきた10歳の頃、わたしは次の計画に移り。この国のナンバーワンにして引きこもりの変わりもの、魔法使いローレン・セレクトに手紙を送り面会した。  彼とのお茶の席で、 『ローレン様はおかしな女だと思われるかもしれませんが。わたしの時が戻ったと言ったらどうします?』  と告げた。  齢10歳にしては、大人な話し方する奇妙な公爵令嬢。  はじめはわたしの話を信じないローレンだった、だが一月後、彼から「会いたい」と連絡が入る。 『ルルーナ嬢、君の言うことは本当だった。妹を助ける為にも、ぜひ協力したい』  わたしとのお茶会の後、彼は魔法を使い巻き戻る前のわたしを見てきたと言った。そんなことが出来るなんて、さすが国一番の魔法使い。  彼は続け様に。 『君は私に匹敵するほどの魔力もありながら……恋をすると、能力があっても人はダメになるのだな』  嫌味も言った。  ほんとうだから、言い返せない。 『そうかもしれませんが。普通、貴族令嬢は魔法を習いませんし、使いません。それに今あなたが話した話は巻き戻る前の話です。今のわたしは彼に恋はしていません』 『へぇ、あんなに夢中だったくせに、今は恋していないのか? クク……妹の事もあるが、面白い女だな』  ローレンに面白い女だと彼に気に入られて、魔法の訓練をつけてくれた。ローレンのお陰で2人の念話も聞ける様になったわ。    ――さて、このお茶会を終わりにしましょうか? 「……カセロ様、この前にプレゼントした、本はお読みになりまして?」 「本? ああ、とても良い本でした」  嘘つきね、貰って直ぐに売ったくせに。巻き戻り前も、今回も、わたしからのプレゼントは全てお金に変えて、両家のご両親と、メィリィへのプレゼントを買ったのでしょう?  巻き戻る前のわたしは自分のお金を使い、欲しいと言われれば高価なものを買ってあげすぎで、いい気にさせすぎた。喜ぶのは一瞬、あげた物はすぐ売り払われて男爵家と伯爵家の支えになる。  今回は最低限のものしか渡していないから。カサロの伯爵家もメィリィの男爵家も裕福にならず、ズッと貧乏のままで借金が増える一方。  いつ事を起こすのかと、彼に見張をつけていたら……今日のお茶会でわたしを殺し、金品を盗んで国外に逃げる計画らしい。 《早くソイツにクッキー食べさせて》 《わ、わかった》 「ルル、このクッキー、今巷で有名な店のものなんだ。ルルは甘いの好きだったでしょう? 食べてみて」 《そう、食べなさい!》  実際はその店のものではなく……メィリィお手製の毒のクッキー。わたしが屋敷に引きこもっていて、実物を知らないとでも思っている。まあ、巻き戻る前は知りませんでしたけど。  いまはローレンの妹――チャシャから差し入れで貰い、菓子屋のクッキーはたくさん食べているわ。彼女が作るクッキーはそんな不味そうで、見た目が汚いクッキーではないわ。 《はやく食え》 《食べて死ねばいい》  まあ怖い。  あまりにも煩いので、ご期待通り食べてあげる。 「美味しそう、いただくわ」  カサロに差し出されたクッキーを一枚取り、いただいた。フフ、そんな期待した瞳で見ないでください。  こんな毒、今のわたしには効かなくて?  でも、演技してあげる…… 「ウッ、ウウッ、グフっ……ハァ、ハァ」  血を吐き、苦しむふりをした……というより。毒になれたと言っても、やはり毒は毒なので吐血はする。 「ルル? どうした? 誰か来てくれ!」 《メィリィ、早く行け!》 《わかったわ》  行かせない、こんな茶番は終わり。  カサロの声を聞き、駆け寄る公爵家の騎士達。  その姿が見えたすぐ、わたしは苦しむ姿やめ立ち上がって笑った。 「あら、不味い……この味はドカロク草とシネロク草、ミカル草……かしら? どれも毒草ね」  と。  2人は毒入りのクッキーを食べても、平然と立ち上がったわたしを見て、念話することを忘れ声に出して叫んだ。 「はあ? どうして毒が効かない? メィリィ、調合を間違えたのか?」   「私は間違っていない! ちゃんと調合したから!」  あらあら、こちらから追求する前にご自身で暴露された……おバカな二人。 「ま、待て! ボクが大切な婚約者にこんな事はしない! この女がやったんだ!」 「え、カサロ? 何を言うの? コイツを殺そうって、先に話したのはあんたよ!」  揉めはじめた2人は騎士に捕まり、お互いに暴言を吐きだした。まったく見るに耐えない醜い争い。 「どっちが毒を盛ったのか、そんなのどうでもいいの? バロルお父様、わたしの話本当でしたでしょう? ローレン様から借りた魔道具で一部始終見ていたでしょうから、この2人に! それ相応の罰を与えてください?」  今日のお茶会が始まる前、バロルお父様に今日のお茶会で何か起こるとだけ話した。お父様は半信半疑で頷き、このお茶会をご覧になっていた。  ――血を吐いたわたしを見て、さぞかし驚いたのでしょう。  慌てて庭園に駆けつけて、2人を睨みつけ声を上げた。 「カサロお前、なんと言う事をした……許さんぞ! こやつらを地下牢屋へぶち込め! ただちに2人の家に調査官を送れ!」 「「かしこまりました!」」 「家に調査官だと? ……ま、待ってください。ルル? 君はボクのことを好きだろ? 助けてくれ」  縋り付く様な、情けない声を上げたカサロ。  巻き戻る前のわたしだったら、どう行動したのかは分かりませんが……今のわたしには何も届かない。 「なぜ? あなたを助けないといけないの? わたしを殺そうとしたし、陰でコソコソ念話するのは好きじゃないの」 「え?」 「あなた達の念話、このペンダントにすべて録音しましたから」   「な、なんでルルに? ボクたちの念話が聞こえるんだ?」 「フフ、簡単な話よ。わたしがあなたよりも魔力量が多くて、強い魔法使いだからかしら? 無理やり婚約したのは悪かったわ。でもこんな事を起こさず、わたしの知らないところで愛し合えば良かったのに……そうすれば、前のわたしでしたら、上手く騙せたわ」 「前のルル?」  ローレンから借りた"ネックレス型魔導具"をはずして、お父様に「証拠になりますわ」と渡した。 「「ルルーナ!!」」  これで彼らは言い逃れすることが出来ないし、裏で繋がる、伯爵と男爵も逃げられないだろう。 「バロルお父様、疲れたのでこれで失礼しますわ」 「ああ、ゆっくり休みなさい」  ガックリ、うなだれる2人を上から見下ろし微笑んで。  わたしは庭園を離れて寝室に戻り、ベッドの上に倒れこむ様にしずんだ。 「ハァ、ハァ――だるい。体が重くて、体がほてる……熱がでているのかも。やっぱり毒耐性を元から持たない体に毒を慣らせただけでは……ダメね。死にはしないけど熱い。これなら……解毒薬も準備するべきだったわ」  わたしは深く息を吐き。 「まあ、これで終わったのだから……数日おとなしく寝ていれば。直に毒が抜ける……はず」 【君はバカか? そう簡単に治るか!】 【ルルーナお姉様、そうです】  目をつむり、眠ろうとしたわたしの部屋に魔法陣が現れる。その中から機嫌の悪いローレンと、彼の妹が呆れた表情を浮かべ現れた。 「……ローレン様、チャシャ様」 「まったく、君は心配ばかりかける」   「落ち着いて兄さん! 早く、ルルーナお姉様に解毒薬を飲ませなくては」   「そうだな……いや、ボクのところに"来る"と言ったら飲ませるか」   「まあ酷い。兄さん、それはまだ早いと思いますよ。もう少し、お姉様のお心を捉えてからではないと……兄さんの性格では嫌われます」 「なんだと?」  顔はいいけど……無愛想で、傲慢的な態度、言葉使いだって悪い。女性は優しい人がいいのです! と、妹のチャシャに言われ放題のローレン。 「あ、あのお話中ごめんなさい。その、わたし……ローレン様のところに行くつもりでしたが?」  兄妹2人は言い合いをやめて、パァッと笑顔になる。 「ほんとうか? ルルーナはボクの嫁に来てくれるのか?」   「ほんと? ルルーナお姉様、兄さんのお嫁さんになってくれるの!」  あ、あれ? わたしローレンのメイドか弟子になるつもりでしたのに。まあ、お嫁に貰ってくれるのならいいかしら? と、わたしは2人に微笑んで頷いた。
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