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運命の人に出会った時、軽やかな鈴の音がすると誰かが言った。
でも、聞こえるのはいつも何かが止まる音。
心臓の止まる音。
呼吸の止まる音。
そして命の止まる音。
俺が鈴の音を聞くことなんて生涯ない。
そう思っていた。
昼下がり、俺は本を片手に店番をしていた。
早朝に焼いたパンは、数種類のパンを除いてほとんど売り切れた。
大盛況でありがたい。
1年前に妹と2人でパン屋を始めた時は客が来てくれるのか不安だった。
パン職人としての修行は積んだし、技術だってベテランには負けない自負がある。しかし、それでも16歳と言う年齢は日本で職人を名乗るにはあまりにも若すぎし、小さいとはいえ自前の店を持つなんて怪しさ満点で客が来るどころか警察が来るのではないかと不安になったこともある。しかし、そんな心配も杞憂に終わり、今では固定の客も着き、大儲けとは行かないまでも妹を養うくらいの稼ぎを得ることは出来ていた。
もうすぐ妹も中学校から帰ってくる。
俺のことは気にしなくていいと言ってるのに「お兄ちゃんを手伝うの!」と頑として譲らず、真っ直ぐ帰ってきて店番と明日の仕込みを一緒に行う。
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