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ー記念日デート当日。
毎朝、一緒に登校する時に待ち合わせをする公園で彼を待つ。
全てが、今日で“最後”。
彼の隣にいることも、彼に抱きしめてもらうのも、彼に支えられることもー。
...泣かないようにしなきゃ。
そう強く思うと、無意識に唇を噛む。
「雫、唇を噛むなよ」
手をスッと伸ばし、私の唇を親指でなぞる。
それによって、唇を噛む力が弱まった。
「か...ず..くん…」
「女の子なんだから、ダメだろ?」
唇から血が出て、傷ができるぞと、最後に言葉を付け足した。
「...ご、めん」
「雫は、不安になるとすぐ唇を噛むよな」
「そう、かな?」
「ああ、噛むよ」
う〜ん、そんなことないんだけどな...
「雫」
「ん?」
「何が、不安なんだ?」
私の唇から手をゆっくりと離し、目線を合わせてくれる和くん。
目が合うとドクンと動いてしまう心臓の音。
ドキドキと鼓動が動く。
何が、不安かって?
それを言ったら、和くんは私の傍にいてくれるー?
そんなこと、ないでしょう?
期待をしてしまう自分が嫌になる。
「ううん、なんでもない!
ねぇ、和くん」
「なに?」
「ここの公園でいっぱい過ごしたよね」
「ああ、そうだな。
ここで告白もしたもんな」
ここで告白をして。
毎朝、待ち合わせをして。
放課後はここでお喋りして…
和くんといろんなことをしたな。
春になると桜が咲き、
夏になると花火をして、
秋になると焼き芋を食べて、
冬には一緒に肉まんを半分ずっこした。
どれもいい思い出。
「でも、確実に雨が多かったよね〜」
「そうだな…。まあ、雫が雨女だから仕方ないな」
ケラケラと笑いながら私を見る。
ーそう。
私は雨女なのだ。
毎回デートすると8割の確率で雨が降ってしまう。
今もザーザーと降っているのがいい証拠。
「久々に私の家行かない?
てるてる坊主作ろうよ!」
私の提案に和くんは「ああ」とだけ答え、私の家に向かう。
てるてる坊主。
『晴天を願い、白い布で作った人形を軒先に吊るすもの』のこと。
誰でも知っているてるてる坊主。
けれど、私と和くんのてるてる坊主は少し違う。
『白い布で作った人形を軒先に吊るす』という所は変わらない。
変わるのは、白い布の中に入れるものに少しだけ手を加えるということだけ。
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