雨の恋

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「雫、どうした?」 和くんは、私の顔を覗き込むようにして見る。 「和、くん」 「ん?」 「...好き」 私は、小さな声で呟いた。 その言葉が聞こえた和くんは、目を丸くする。 そして、私は少し大きな声をだして言葉を繋げる。 「好きなの。和くんが、好き...っ。 やっぱり...和くんと、別れたくなんか、ないよ...っ!」 だんだんと、和くんが霞んで見えなくなっていく。 そこで、やっと理解した。 ...私、いま泣いてるんだ。 和くん、私ね? 別れたいと言われてもやっぱり、和くんが好き。 ただ、純粋に和くんが好きなの。 「雫、俺は...」 和くんは、一瞬だけ悲しそうな顔で私を見て、すぐに目を逸らした。 沈黙が私たちを囲う。 外からはザーザーと降っている雨の音だけが漏れ聞こえていて、 それ以外の音は何も聞こえない。 「和くんっ、私を...見て?」 その沈黙に耐えきれなくて、 震える声で言葉を繋いだ私に、和くんははゆっくりと顔を合わせてくれる。 「...和くん、これは告白なんかじゃ、ないよ?」 ーそう。 これは、告白なんかじゃない。 「最後に、私の本当の気持ちを伝えたかっただけ。 だから、告白なんかじゃない…」 “本当の気持ちを伝える” もう、この時点で告白なんだと思う。 だけど、 この想いに答えはいらない。 ううん、いらないんじゃない。 ーもう、答えは出ているから。 「...雫の気持ちは、わかった」 和くんが「ごめん」と言わないのは“優しさ”だと思う。 私がこれ以上傷つかないように、 私がこれ以上和くんを想わないように、するための“優しさ”。 その優しさにまたキュンと胸が鳴った。 「和くん」 「ん?」 これ以上、和くんに迷惑をかけたくない。 だから、私も和くんみたいにちゃんと、けじめをつけよう。 和くんとの、けじめをー。 和くんは、これから先、いろんな人に出逢う。 ただ、私と付き合っていたことを忘れないで欲しいな… いつか、大人になって再会した時。 お互い、笑い合いながら「こんなこともあったね!」って言えたらいいな。 私は、深呼吸をして和くんの目を見て口を開く。 「ありがとう。 私と、付き合ってくれて。 和くん...さようなら...っ」 そう言って、和くんに微笑んだ。 和くんは私を見て、目を見開き驚いた表情をし、 私に向かって手を伸ばした。 ーけれど、その手が私を触れることはなかった。 手をその場で拳に握り、引き戻した。 「俺こそ、ありがとうな」 そう言って、荷物を持ち、その場から和くんは立ち上がる。 ガチャンとした扉が閉まる音と同時に、一粒の涙が私の頬を伝った。 「…っ、ヒック..ぅぅっ」 和くんが出て行ったと理解した途端、抑えていた涙が溢れ出し、声が漏れる。 「ふっ、ぅ…っ」 私は泣きながら、和くんがいなくなった部屋で願いを紙に書いた。 和くん、和くん。 本当に好き、大好きでした。 そして、 さようなら。
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