雨の恋

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「てるてる坊主…作らなきゃな…」 そう呟き、顔を上げ、学校の門の方に視線を向けた。 …え? 懐かしい人が私の視界に入る。 驚きでバサッと傘を落としてしまう。 無意識のうちにその人に向かって、走り出していた。 「雫」 目の前で立ち止まると、視線が交わる。 ー2年前の面影は、あまりない。 けれど、確信する。 だって、私の名前を呼んだ後に、 無邪気笑顔を向けるのは彼しかいないから。 「...和、くん…」 名前を弱々しく呼んだ途端、私の腕を引っ張られ、彼の胸に飛び込んだ。 今、和くんに抱きしめられてる!? 2年前とは、また違う身体つき。 少し固く逞しくなった身体に高くなった身長。 そして、大きくなった手。 雨が私たち二人を濡らす。 けれど、そんなことどうでもよかった。 自然と、目に涙が溜まっていく。 「和くん?本物の、和くん...?」 「ああ、本物」 「和くん...っ!」 彼の背中に腕をまわす。 「雫、会いたかった。 向こうに行って忘れた日なんてない。」 和くんからの言葉を聞いた瞬間、とめどなく涙が溢れ出した。 「ぅ..っ、和くんっ、和くん...っ!」 ぎゅっと、力いっぱい和くんを抱きしめる。 「雫、ごめんな。 あの時は、本当にごめん」 ブンブンと和くんの腕の中で首を左右に振る。 「もう、いいっ、もういいの!」 謝って欲しくなんかない。 もう、過去のことだから。 済んだことだからー。 「雫」 どうか、今だけ… 今だけはー。 「...離れたくない…っ」 和くんのぬくもりを感じていたい。 「雫?俺、雫の顔がみたい」 私の体を離して、親指でそっと涙を拭ってくれる和くん。 私も和くんも雨に打たれてビショビショに濡れている。 湿った服が重い。 まだ学校に残っている人たちが私たちを見て、何かを言っているが聞こえない。 もう二人だけの世界みたいに感じる。 ゆっくりと目をあげて、和くんと目を合わせる。 すると、真剣な表情で私の目を捉えていた。
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