ピアノのこえ 3

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ピアノのこえ 3

 バイエルに並ぶ音符の上には、私にしか解読できないイラストで音をあらわす記号が書かれている。  それは曲の意味を先生に訊ね、風景を思い描き私が描き込んだものだ。  雨が降っている、と言われれば蛙が鳴きだす瞬間を緑のクーピーで描いて、その横には「右、3」と数字が振ってある。  これは、右手の三つ目の指でその鍵盤を叩く、と言うしるし。  もちろん伴奏の方にも、傘を撫でる雫と、「左、1」など、絵と数字が書いてある。  私には、ドがどの鍵盤なのか、レがどの鍵盤なのか、ミがどの鍵盤なのか、わからない。  私には、ドを指す音符がドなのだと、レを指す音符がレなのだと、ミを指す音符がミなのだと、一切理解出来ない。  新しい曲を覚える時は、先生が何度も同じ曲を繰り返し奏で、音を全て耳で覚える。  そして、その曲の作曲者がどのような人で、何を想って作った曲なのか、ストーリーを聞いて玉の上に絵と使う指を一つ残らずメモして、そこからやっとスタートする。
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