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めでたい席は来賓がすごい
昔、邪神とされた神様がいた。
あたし加賀地東子の一族は『邪神の監視人』とされ、長らく邪神と同一視されて差別されてきた。が、二年前ひょんなことから封印が解けてみれば、それは悪意ある人間の奸計だったと判明。
封印を解いたあたしを気に入った蛇神はそのまま押しかけ同居。古代の感覚じゃ、人外が押しかけ同居=結婚だ。雪女とか鶴の恩返しとかそうでしょ? だもんで、嫁にされてしまった。
最初はとある妖に誘拐されたことあるあたしの身を守ってくれるならと妥協してたけど、色々あってちゃんとした夫婦になった。人間の法律だとまだ結婚できないんで、神や妖の社会ではだけどね。
『邪神を封じる神社』だったうちの神社も今じゃすっかり縁結びで有名。毎日参拝客が大勢来る人気スポットだ。えらいジョブチェンジだよなぁ。しかもヤマヤノオロチの息子がだよ?
神社主催の合コンもよくやってるし、結婚式の予約もキャンセル待ち。今日も一件入ってる。
特に大事な式が。
「巧お姉ちゃん、上弦さん、結婚おめでとう!」
あたしは新郎新婦に声をかけた。
そう。この二人の結婚式なんだ。
「誰?」って人は過去作参照してほしいけど……巧お姉ちゃんはあたしの遠縁。加賀地家は『邪神の監視人』扱いされてたせいで婿・嫁に来るのはワケあり能力者ばっかだったから、たいてい生まれる子供は何らかの能力を持つ。巧お姉ちゃんの場合は錬金術とものを作る才能だった。業界じゃ有名な神職人らしい。
しれっと神器作っちゃってたとか、一瞬で壊れた街を再建したとか、どえらい伝説の持ち主。ただし本人無自覚。
才能を生かし、警察の超常現象系事件のみを扱う特別部署で装備を作る仕事をしてる。隊員の武器とか防御機具、人外に対応した捕獲道具なんかね。
実際現場で戦う人だけじゃなく、後方でそういう装備を作る人もいるから市民の安全は守られてるんだなぁ。
一方の上弦さんは蛇神九郎の部下。しかも四天王の一人だ。ニホンオオカミの妖でけっこう強い。元は土地神だったのがテリトリーをヤマタノオロチに奪われ、一族は上弦さんを除いて全滅した。死にかけてたところを助けたのが九郎だったそうで、以来ものっすごく服従してる。愛が重い。
え、九郎はヤマタノオロチの息子なのにって? 血がつながってるっていうだけで、一緒に暮らしたこともないし、めちゃくちゃ仲悪いのよね。九郎の実母は人妻だったのに手籠めにされたから、当然生まれてきた九郎の扱いはひどいものだったという。九郎にとってヤマタノオロチは父親じゃなく憎き敵。ついにはスサノオノミコトをサポートして退治したって時点で関係性がよくわかると言うもの。
ともかく上弦さんは命の恩人である九郎への敬愛がものすごいけど性格が傲慢でつっけんどんなもんで、トラブルメーカーだった。四天王の他の三人ともケンカが絶えず、三人はぞれぞれ配下がいるのに上弦さんだけ一人もなし。
それをペットの犬みたいに大人しくさせたのが巧お姉ちゃんだ。すご。なんでも前世からの知り合いだったらしいね。
「ありがと、東子ちゃん」
「巧お姉ちゃんキレ―。衣装もものすごく刺しゅう細かい、つーか高そう……」
雪華さんと子の職人チームの本気度合いが分かる。雪華さんは九郎の四天王の一人、紅一点だ。鶴の恩返しで分かる通り鶴の妖は織物が得意だそうで、現代じゃアパレルブランド展開してる。和服から洋服、世界各国民族衣装や、能力者の装備としての服までなんでもござれ。
「東子ちゃんの服のほうが高いでしょ。神の嫁としての正装でしょそれ?」
「まぁ……」
自分のあきらかに超高品質と分かる、九郎の白蛇モチーフが随所に縫ってある和装を眺める。
最初、神主催の自分の結婚式だって知らずに着てったっけね……しかもクリパだっつって……。
遠い目。
「そこの駄犬は死ぬほど嫌いですが、巧さんの花嫁衣裳ですもの。一族総出でがんばりましたわ」
楚々とした大和撫子風情の雪華さんが和服の袖を口元にあてて「ほほ」と笑う。ううむ、クール系毒舌美女は今日も絶好調ですな。
「巧さんには仕事柄お世話になっておりますし、その駄犬を躾けてくださってるお礼ですわ」
「おい。さっきから言ってる駄犬とはそれがしのことか」
人型に化けてる上弦さんがうなる。見た目は時代劇に出てくる忠臣や武士といった感じ。
「それがしは狼だ。まだ覚えんのか、記憶力が足りんな。鶴は頭が小さいからか」
「おほほ、脳の大小で賢さは変わりませんのよ」
あああ、ズゴゴゴゴゴって効果音が見える。
どっちも殺気抑えてー。祝いの席よ、祝いの席。
新郎が殺気放つなや。
こんな感じで仲悪いんだよなぁ、この二人。原因は100%上弦さんがケンカ売りまくってたせいだけど。
矛を収めたのは雪華さんのほうだった。
「本来ならしばき倒したいところですが、本日はおめでたい席。私が大人になってやめておきますわ。改めましてご結婚おめでとうございます巧さん」
「ありがとうございます雪華さん」
「相変わらず厭味ったらしい女め」
「はいはい、ゲンも落ち着いて。そんな顔してたらせっかくかっこよくしてもらったのにもったいないわよ」
「む、そうか」
耳と尻尾が出てブンブン振ってる。
かっこいいって言葉、うれしかったんだな。
九郎が涙をぬぐう仕草して、
「昔はブチ切れて辺り一帯吹き飛ばしてた上弦が丸くなったな……。ところで東子、俺はかっこいい?」
「はいはい、かっこいいかっこいい」
あたしの体に巻きついてる蛇の頭をなでる。いつものことながら九郎の背中から出てる蛇の体が巻きついてます。
傍から見れば「あきらかに妖とかそういう類の怪物蛇がJK絞め殺す一歩手前」的絵面なんでビックリされることが多いけど、いつものことなんで慣れた。
あきらめたともいう。
「しっかし、めちゃくちゃ集まったね。境内まで貸し切りにしてよかった」
「俺の配下だけでなく加賀地家の先祖、白河巧の仕事関係者となればそれくらい必要だと思った」
白髪に空色の瞳と一発で神様と分かる風貌の九郎が言う。
つか、そこらしこに神様って分かる存在いるわ。あっちにはスサノオノミコト、向こうにはイザナミノミコト……ってちょ、おいおいおい! 日本神話の大物クラスがゴロゴロと!
「来賓がすごすぎ。え、仕事関係者枠?」
「そうね。私よく神様たちから仕事頼まれるのよ。女神はコスメやネイルとか。やっぱりあちらも女性に依頼したほうが色々相談しやすいみたいで」
「巧お姉ちゃんネイルアートもやってんの? 何でも作れすぎ」
「男性の神様は奥様へのプレゼント依頼ね。それと怒らせたときのお詫びの品」
「あー、なるほど」
納得。
「スイーツ系は俺が頼まれることが多いが、装身具はなぁ。デザイン・品質ともに白河巧を超える職人はおらん」
「巧お姉ちゃんプロだもんね。つか九郎、スイーツ系のお詫びの品、あんたが作ってあげてることが多かったの?」
確かに九郎はスーパー主夫で、料理めちゃくちゃおいしい。数千年封印されてたにも関わらず現代に対応してるし。
「ああ。ちなみに常連はスサノオとイザナキノミコトだ」
日本神話のトップレベルがヤマタノオロチの息子に、しょっちゅう奥さんへのお詫びスイーツ注文してるって。どっからツッコんでいい?
「少し前はタピオカドリンクとかマリトッツォとかよく依頼されてた。最近は見た目がかわいいものだな。動物とか花の形とか映えるやつ」
「神様もインスタやっとるんかい」
ていうかむしろ今ここに人間て何人いる? 九郎の配下は全員妖だし、加賀地家先祖もワケあり人外や能力者ばっかだ。あたしももう仙女の域に入ってるらしいし、巧お姉ちゃんすら人間じゃない。このところ上弦さんが修行して妖から神のレベルに戻ったそうで、もはや「神の嫁」だもんね。
人間……。……うちの両親くらい? でもどっちも特殊な家系だから普通の人間じゃないわ。父方は『邪神を封じた英雄』の家系なもんで、代々優秀な能力者ばっか取りこんでた。結果父さんものほほんとした普通の神主に見えて実力はかなりのもの。
巧お姉ちゃんの同僚も、職場が職場。人外か何らかの能力者だらけ。
うわぁお、壮観。
あと、みんな酒よく飲むなぁ。日本の神様はお酒好き。
「……ねえ、九郎。そこのデカい酒樽に『ヤマタノオロチ殺し』ってあるのはなに」
あかんくない?
「ああほら、倒した時に酒で酔っ払わせただろ。あれただの酒じゃなく、薬やら毒やらブチこみまくってたんだよ。だから効いたんだが」
混ぜるな危険!
「毒草も用法を正しく守れば有用な薬さ。配合を調整し、逆に体にいい薬用酒にしてウチの食品部門で売ってる」
複合企業のCEOだもんねー。食品販売くらいしてるよねー。
祀り神、主夫、ゲーマー、動画職人、土地開発業者、アパレルから食品まで扱う複合企業CEO、オシャレなカフェ・パン屋のオーナー、少女漫画家のスーパーアシスタント、etc……。もううちの祀り神様のジョブがワケ分かりません。日々増え続けてる。
「この数年、機能性食品ってよく売れてるだろ。現代人は疲れてるんだな。すごい売れ行きだ。言っとくがアルコール成分はゼロ。きちんと機能性表示食品として売ってる」
「いやいやいや、ネーミングなんとかしようよ」
血縁上は息子でしょうが!
九郎は平然としてジョッキ傾けながら、
「元にしたのがそれだし、キャッチ―だからそうしたが何かまずいか?」
「…………」
うん、父子関係ツッコむのはやめよう。
話題変えよう。
「巧お姉ちゃん、ウエディングドレスは写真だけ撮ったんだっけ。お色直しで着替えてもよかったのに」
普通は和装→洋装のお色直しなんて無理だけど、ウチのスタッフなら神通力や妖力で瞬間着替えできます。
「うーん、考えたんだけどやめたの。ドレスじゃウエスト調整できないでしょ」
「いやいや巧お姉ちゃん細いし。ウエスト絞る必要ないじゃん」
「違うの。実は赤ちゃんができてね」
「あ、なるほ……ってえええええ!?」
思わず叫んじゃったよ!
周りもどよめく。
「え、白河さんおめでた?」
「ダブルでおめでとー!」
冷静だったのは九郎はじめ神様メンバー。
「気づいてたが本人が言ってないから黙ってた。おめでとう」
さすが神、気づいてたんかい。
「ありがとうございます、九郎様。必ずや九郎様のお役に立つ子に育てますので」
九郎は眉間にシワ寄せて、
「そういうのいらん。白河巧、普通に育てていいからな。というか父親に似ないことを祈ろう。外見じゃなく中身の話な」
あ、なんかみんなさりげに手合わせて祈ってる。そこまでかい。分かるけど。
これだけ大勢の神様たちの祈り、めっちゃ効きそうだな。
上弦さんはムスッとしながらも黙ってた。ほんと成長したなぁ。ほろり。
「ですねぇ。見た目はゲンに似てるといいなぁ。モフモフ。狼の尻尾と耳生えてるかな。それとも狼の姿で生まれてくるのかしら?」
「巧お姉ちゃん、身重なのに式やって大丈夫? 具合悪くなったらすぐ言ってね」
「大丈夫、もしそうなっても医者ならいるさ」
白衣姿の姉御肌な年齢不詳のショートヘアな女性がワイングラス片手に近づいてきた。
「斬子おばあちゃん」
室町時代の剣が付喪神化した、うちの先祖の一人だ。もちろん巧お姉ちゃんの先祖でもある。
こんなふうに加賀地家はバラエティー豊かで、先祖がフツーに存命してる。妖だから生きてるって表現は正しいのか知らんけど。
医師として現役で働いてる、我が家のホームドクターだ。
「斬子おばあちゃんが担当医なのよ」
「そっか、そりゃ安心だね」
上弦さんの子なら一般の人間の病院は無理だし。狼姿で生まれてくる可能性大だもんね。
「今んとこ順調だし、平気だろ。あと一週間もすれば生まれるね」
「早っ?!」
「神や妖の子は早いもんだよ」
「いやいや、一緒に住むようになったのついこの間だってのに、もう子供生まれるって早すぎない?」
「うんまぁ、私も思ったけどね……」
「そうか?」
不思議がる九郎や上弦さん。
斬子おばあちゃんは優雅にワインを飲みながら、
「動物系の神や妖にとって、つがいを得る=繁殖なのさ。本能だよ」
「あ、動物の本能ね……。あれ? でもあたしはもう二年経ってるよ?」
九郎が押しかけ同居開始したのは高1の話だ。現在高3。
九郎は当然といったふうに、
「そこは現代の常識や価値観に合わせた。今は十代だと世間的にまずいのだろう?」
「ありがと。さすがにそうだったらまずすぎた」
現代で神様の嫁になって十代で子供できました、はね……。絶対「嘘だろ」「詐欺じゃないか?」「どこの危ない新興宗教だ」ってなるわ。
「巧お姉ちゃんはもう二十代で社会人だもんね、問題ないってことか。にしても上弦さんもけっこう束縛強い系……」
「九郎様ほどじゃないと思うわ。今も物理的に束縛っていうか巻きついてるでしょ」
うんそーね、八匹に増えてるね。そんでそれぞれ酒飲んでるね。
九郎はヤマタノオロチの息子だからか、頭の数は一本多い九つ。人型の時は背中から最大八つ出る。
「とぐろ巻くのはいつものことだから。酒に酔ったって意味じゃなく、物理的な意味ね」
「何度も言うけどよく平気ね」
「別に絞めつけてはこないし。甘えてるんだからまぁいっかって」
九郎はその出生から誰かに甘えることなんてできなかった。ようやくリラックスして甘えることができてるんだから、いいかなと。
酒で濡れた口回りふいてあげればご機嫌だ。スリスリしてくる。
「巧ちゃん、アナタ明日から育休ネ。上司命令ヨっ」
オネエ声が近づいてきた。
これは巧お姉ちゃんの上司、美木課長だな。
見ればやはりトレードマークの白タンクトップ+ピチピチボトムス着たマッチョだった。わぁ、視界が埋まる。
「そうでないと無理するんだもの。いいわネ、巧ちゃんと赤ちゃんの健康のほうが大事なんだカラっ!」
暑苦しい巨体でしなを作り、「めっ」てやる課長。
「すみません、課長。急にご迷惑を……」
「何言ってるの、新しい命が生まれるのはおめでたいことヨ。仕事は他の誰かが代わりにできるけど、その子を守って育てられるのは巧ちゃんだけなのヨ。気にしないで元気な子を産むことだけ考えてネっ。もしマタハラしやがるおバカさんがいたら……アタシが説教してやるワ」
ウフフと筋肉盛り上げる課長。
美木課長の本職はお坊さん。本物の説教だな。
飛鳥時代生まれで、日本仏教界ではかなりの高僧らしい。「マッチョオネエなのに?!」って? うん、懐深いなぁ……って思う。
日本人は宗教に関して寛容なのですなぁ。
「そうだそうだ、しっかり休んで元気な子供生みな」
「子供は宝だからね!」
「仕事はこっちでやっとくよ。心配せずに出産育児に専念しなさい」
課長に賛成する同僚たち。
「ありがとうございます……私、すごく仲間に恵まれてますね」
「巧ちゃんは我慢しすぎちゃう子だから。こういう時は周りに頼りなさいな。うちの人も頼られるの好きだし、どんどん頼っちゃっていいのよ」
美木課長の隣に立ってそう言ったのは、外見年齢30代の古風な美人。時代劇のお姫様とか昭和のドラマに出てくるいいところのお嬢さんって感じ。
なんと美木課長の奥様である。
「は!? そこのマッチョオネェ結婚してんの!?つーかできたの!?」って叫んだ人。はーい、手上げて。わぁ、多い。だよねー。
あたしも初対面の時ツッコんじゃったよ。だもんで直後慌ててこう言ったわ。
「すいません。えーと、すごいですね?」
「ふふ、大丈夫よです。しょっちゅう言われますから」
「美木課長の恋愛対象って女性だったんですね。男性だと思ってた」
「どっちもあり、つまりバイセクシャルね。私のほうが猛アタックしたんですよ」
「え、マジで?」
そりゃ好みは人それぞれだけど。どういう層にヒットするんだ課長は。
奥さんは右頬を触りながら、
「私は生まれつきこのあたり……顔の右側に生まれつき大きなアザがあったんです。今はもうありませんけどね。そのせいで生まれてすぐ捨てられたようです」
なにそれ。
「ひどい」
「飛鳥時代ですもの、子捨てなんてよくあったことですよ。誠光様に拾われて……当時お寺は孤児院も兼ねてましたから、同じように捨てられた子たちと一緒に育ちました」
誠光って誰。あ、美木課長の下の名前だった。
「私のアザはどうも呪いらしいと誠光様があれこれ調べたところ、私の一族は丸ごと呪われてたそうです」
「アッサリ言ってますけどけっこう大事ですよ」
「当然というかなんというかなので。なにしろ気に食わない相手は一族郎党皆殺しにして財産奪ったり讒言で陥れたり、たまたま見かけた人をむしゃくしゃしてたから襲ったとか、その他とても言えないことを山ほどやってたみたいで。それだけやれば被害者が怨霊化&合体してとんでもないものになりますよね。子々孫々不幸になれと呪う気持ちも分かると言いますか」
「いやいやいや、悪いことした本人たちは自業自得でも、生まれたばかりの赤ちゃんには罪ありませんよね?」
運悪くその家に生まれちゃっただけで、まだ何もしてないじゃん。
「と誠光様もおっしゃって、何か月も御仏にお祈りしてくださったんです」
「当たり前じゃないノ。そうしたら、御仏の夢を見たのヨ。いわく、たしかにもっともだが呪いを消すのは単純なことではない。たくさん善行を積み、犠牲者への弔いを毎日欠かさなければ解けるであろう……って。どれだけ年月がかかろうと構わないワ。うら若い女の子の顔のためだもの、がんばるってなるじゃない」
「誠光様も一緒にやってくださって」
美木課長は見た目はアレだけど中身はいい人で正義の味方だもんね。
「なるほど~。それで惚れて猛アタックしたんですね」
「それもありますけど、なにより筋肉が……」
ポッと頬染める奥さん。
理解した。筋肉フェチですな。
一体何才差なんだってツッコミはやめとこう。当時はすごい年の差夫婦もよくあったろうしね。
……あ、思い出した。
回想終えて奥さんにきく。
「そういえば今日奥さんと気が合いそうなウチの先祖来てるんですよ。同じ筋肉フェチ。なんかいけるかも!って太平洋を泳いで日本にやってきた変人―――人間か?って言いたくなるな……マッチョに一目ぼれして婿に引き入れたって人で」
「まあ! それは話が合いそうです!」
紹介してあげたらめっちゃ意気投合してた。
そこへ人と神と人ならざるもののトラブル仲裁役やってる比良坂士朗さんがやって来た。
「美木課長の奥さんが話してるならちょうどいい。課長、九郎、加賀地さん。ちょっといいか?」
このメンツを脇に呼ぶってことは。
あたしたちはうなずいてそっと席を外した。
比良坂さんはさらに途中で妖狐警察長官の綺子ちゃんも誘い、九郎に、
「どこか人に聞かれず話せる所はないか? こんな祝いの日に話す内容じゃないんだが、早ければ早い方がいいんだ。察しがついてるだろう? 蟲毒の件だ」
第二次世界大戦時に作られた強力な妖怪、蟲毒。かつて幼いあたしを誘拐し、今もさらに強い毒を作るべく暗躍している敵。
「家のほうに行こう」
九郎は家の客間に全員を案内した。
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