夢のごとく………………

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私が笑わない花魁と呼ばれるようになって幾年たっただろうか。普通なら、遊女の身に落ちても仕方がなかったが、何故か私は未だに花魁の地位を守っていた。それは、女将が言ったことがきっかけだった。 「もし、この遊郭の一番の花魁、伊吹を笑わせることができたら、一週間、この遊郭を無料に致します!」 なんとも無理な要求である。しかし、客足はその言葉以降明らかに増えていた。勿論私を笑わせるためである。とある客は西洋の着物的なものとか言って、ドレス?という名のものを持ってきたり、とある客は宝石?と呼ばれる豪華で眩しい石を持ってきたりと、手土産を持参するようになってった。全ては私をただ笑わせるためだけに。女というものは綺麗なものや美しいものが好きだろう、そう考えての手土産だったのだろう。私も女だ。だから美しいものや綺麗なものは確かに好きだ。けれどそれよりも興味を引く物がある。書物だ。書物はいい。世の中のことを知れる。それなりに知識もつく。客相手にも意外と受ける。だから私は書物が欲しい。しかしそんな事は言えない。女のくせにと言われるだけ。ここに来る男たちは癒やしを求めているのだ。其処に無駄な知識はいらない。だが、私はどうしても知識が欲しかった。いつか此処を出たときのために。私は笑わなかった。どのようなことをされても。そして、ある時気がついた奇妙な病のこと。それは精神的ものから来てるかもなと考えたこと。それが更に私を追い詰めた。ずっと続くと思っていた。 ………あの人が来るまでは………。
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