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結婚式 当日
「あ、血が出ていますよ?」
挙式の前にサインをするらしく、教皇が待つ部屋にステル殿下と並び向かっていたら、ステル殿下の右手の手の平に血が滲んでいるのが見えた。
「ああ、持っていたグラスが割れただけだ。」
「王宮にあるグラスは軽くて薄いですからね。」
私の言葉に返事をすることもなく、ステル殿下は歩き続ける。
結婚式を挙げる為に着た真っ白なドレス姿の私をチラッと確認しただけで、何の言葉も言わなかったステル殿下。
第2皇子として生まれたはずなのに第3皇子となっていて、私と結婚することで王位継承の権利が与えられることになった皇太子殿下。
黒髪持ちで生まれたことにより棄てられることになり、近衛騎士団長により拐われた挙げ句また棄てられ、10歳の頃にジルゴバートに拾われたステル殿下。
好きな女と結婚することも出来ず、没落貴族でヒヒンソウの花の刻印を持つ聖女を押し付けられた可哀想な皇太子殿下。
「王族はもう1つの名前を付けることが出来ますが、どうしますか?」
毎夜のように女達から聞かされていた言葉を思い出しながら教皇が待つ部屋に入り、カルティーヌ・マフィオスと書き終わった私に教皇が聞いてきた。
「もう1つの名前?」
「はい、良好で親しい関係の相手だけが呼ぶことが許される名です。
王族の妻となる方は夫になる方や自分で付けることが一般的ですね。」
それを聞き、私は即答した。
「ルルって付ける。」
「ルル、ですか。」
「うん、インソルドで私が呼ばれていた名前。
色々あって私の存在は消えてるだろうから、6歳の時にマフィオス家が私を養子に入れてくれて。
その時に女の名前、カルティーヌって付けてくれたんだけど。
でも、カルベルであった時もカルティーヌになってからも私はインソルドで“ルル”って呼ばれてた。」
そう言ってから、教皇が指差す場所に“カルティーヌ・エントルシア・ルル”と書いた。
「この名前の隣にステル殿下の名前が並ぶことになります。」
「そっか・・・。」
“ルル”という文字を見てステル殿下は“ルル”のことを少しだけでも思い出すのか・・・。
インソルドのことを少しだけでも思い出すのか・・・。
10歳だった幼いソソは、すっかり王宮の男となりステル殿下となっていた。
第2騎士団の団長として強く強く強く生き抜いてはいるけれど、最善を尽くしてはいないであろうステル殿下。
「黒髪持ちは国王にはなれないの?」
私の言葉に教皇は面白そうな顔で笑い、私のことを見てきた。
「黒髪持ちだから国王になれない、そんな話は聞いたことがありませんね。」
その返事だけを聞き、私は勢いよく立ち上がった。
「この王宮は腐り果ててる。
女達を見ただけでそれが分かる。
あんな女達では強い子どもを生めるわけがない。」
この半月で会った女達を思い浮かべながら言うと、教皇は少し大きめな声で笑っていた。
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