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静かなのにやけに重い声で、その声に王座の間は静まり返った。
その声の主を探すと王座の間の扉側に集まっていた多くの王族達や騎士団達が左右に移動し、真ん中に道が出来た。
その道から現れたのは2人の男。
1人は“爺さん”という男で、今にも死んでしまいそうなくらい痩せ細り、もう1人の若い男におぶられている。
てっきり若い男の方があの声を出したのかと思っていたら、おぶられている男の方がゆっくりと口を開いた。
「王の器を持って生まれたのはエリナエルが生んだ子どもだった。
黒髪持ちとして生まれてしまった可哀想な子どもが、王の器を持って生まれてきた。」
男がそう言うと・・・
王座の間にいた多くの人間が膝をついて頭を下げた。
王族の血が流れていると思われる人間達、第2騎士団の騎士達、モルダン近衛騎士団長、ミランダとミランダに促されたカルベル。
そして、チチとクレドだけでなく、ナンフリーク殿下まで。
膝をついていない人間はヤミレナスとヤミレナスの周りにいる数人の男、ソソと私、ジルゴバートとマルチネス王妃だけだった。
「剣を仕舞え、ステル。
王座の間はいかなる理由があっても血を流し合う場としてはならない。」
「・・・もしかして、クラスト陛下ですか?」
ソソが聞くと男は困ったように首を横に振った。
「陛下ではなくただのクラストだ。
1人では自力で歩くことも出来ない、クレドとハフリークがいなければ各国を回ることも出来ない、太陽の刻印を持たないただのクラストだ。」
「ハフリーク・・・殿下・・・。
お久しぶりです。」
ステルが驚きながらクラスト陛下をおぶっている男に挨拶をした。
短髪の灰色の髪、真っ黒に日焼けをしている肌、健康的についた筋肉、ハツラツとした顔をしている良い目の男。
この男が第1皇太子、ハフリーク殿下。
初めて見たハフリーク殿下が嬉しそうな顔でソソに笑い掛け、それから私の方を見て大きく笑った。
「眩しい!!!」
そんなことを言い出したかと思ったら・・・
「ハフリーク・・・!?
貴方、ハフリークなの!!?
よかった・・・よかった・・・!!」
マルチネス王妃が笛を投げ捨てハフリーク殿下によろよろと駆け寄った。
「やっと小屋から出て来たのね・・・!!
8年もあの小屋に閉じ籠って・・・!!
あんなに太っていたのに、しばらく見ない内にこんなに健康的になって・・・!!」
マルチネス王妃がその目から涙を流しながら声高くハフリーク殿下の頬を両手で包んだ。
それにハフリーク殿下はマルチネス王妃の手から逃れるように顔を背けた。
「7年前からあの小屋にはもういなかったよ。
お母様が持ってくる料理はカルベルに食べて貰っていた。
カルベル、7年もありがとうね!」
ハフリーク殿下がカルベルの方を見ながらお礼を伝えると、カルベルが嬉しそうに笑って大きく頷いている。
「7年も・・・あの小屋にはいなかったの・・・?」
「うん、夜中に小屋から出た時、たまたまクレドも出てきた所で。
それからはお父様の世話をしながら、お父様と一緒に各国を回る戦士となった。」
ハフリーク殿下がそう言って、ソソのことを真っ直ぐと見詰めた。
「キミが現れた時、僕は自分が国王になることはないと分かったよ。
キミに国王の器があると分かってしまったから。
それなのにお母様が毎日毎日毎日僕が国王になるよう縛り付けてきて。
僕はあの小屋に逃げてしまった。」
「そうだったんですか・・・。」
ソソが複雑そうな顔で返事をした。
「ハフリーク兄様、お帰りなさい。」
ナンフリーク殿下がハフリーク殿下の元に歩いてきて、嬉しそうな顔でそう言った。
「長い年月、ナンフリーク1人を残して悪かったね。」
「僕には何の力もなく、ただここにいただけです。」
「僕からしてみたらここにいるだけでも凄い力だと思ってしまうけどね。
遅くなって申し訳なかった。
世界はとても広かったから。」
「そうだな、この世界はとても広かった。
俺がエリナエルと結婚をする時、クレバトル教皇からも言われていた。
この世界はとても広いから旅に出るといいと。
俺は国王だからそんなことが出来る日はないと思っていたが・・・」
クラスト陛下が困った顔で笑い、ソソの方を見た。
「黒髪持ちなうえに魔獣持ちだなんて当時は知らなかったから、インソルドに様子を見に行ったクレドから聞いた時は驚いたぞ?
そのうえ・・・」
言葉を切った後、私のことをゆっくりと見てきた。
「花持ちの女の子と出会えていたとはな。」
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