濡れ鼠みたいに

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「……は? 濡れ鼠?」 「そう。あ、ブレザーありがとね」  反射的に自分のブレザーを渡してしまったが、それを嫌な顔をせずに受け取ってくれる。幼なじみだから意識されていないだけだろうか。 「濡れ鼠ってなんだよ」 「衣服を着たまま、全身がずぶ濡れになること?」 「いや、意味じゃなくて」  なんでそんなことを言いだしたのかを聞いたのだが、その意図は伝わらずだった。ただ普通になんで、と聞けばよかったものをなんて伝えようか迷い、空を見上げて考えていると、「30%」と日景が言ってきた。 「今日の降水確率30%だって」 「いや、そういうことじゃなくて」 「降水確率ってさ、同じ気象条件下で過去何回雨が降ったかを統計的に割り出した確率のことなんだって」 「へー、そうなのか」 「つまり、今日30%の確率でもう一度私の下着が見れます」 「っば!?」 「いやんえっちー」  わざとらしく身体を抱くようにした日景にうろたえてしまった。それを餌に食いついてきて、からかいの目が向けられる。 「ほんと、共也って昔からいやらしーんだから」 「いや、どちらかというと見せてきてるのはお前だからな」 「つまり、降水確率=共也のラッキースケベイベント発生確率。しかもそれが30%。降れば歓喜、降らねば嘆き、さあ共也の運命はいかに」 「次回予告風にするな、それと話変えんなよ」  まったく、とため息をついて僕は歩き出す。腕時計を見れば予鈴まであと10分程度。走らなくても間に合うが、結構ギリギリの時間だった。 「もー、つれないな。久しぶりにお話ししてあげてるのに」 「別に頼んでない」 「寂しかった? ねぇ寂しかった?」  ん、ん? と顔を覗き込んでくる日景を振り払って早歩きをする。決して早くはないはずだが、先程のウザがらみが止んで振り返ってみると、一瞬俯いていた日景が目に入った。 「……なんかあったのか?」 「うんにゃ、なーんにも」  取り繕うように見えた日景が笑顔を振りまいて、僕を追い越していく。そして、 「じゃ、放課後ね、また」  と走って行ってしまった。
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