濡れ鼠みたいに

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「ブレザー、ありがとね、共也」  まだ教室に人がはけきっていないのに、日景は僕に話しかけてきた。普段あまり接点がないため、周囲からは奇異な目を向けられていると思う。実際、ひそひそ話をしているのが見えた。 「そうだ、雨降ってきたし、傘忘れたから入れて。家近いし、ちょうどいいでしょ」  降水確率30%は当たり、外は大雨と言えるほどだった。  そして有無を言わせずに僕の腕を取って引っ張ってくる。視線が玄関を出た後に一層強く向けられていた。当然、幼なじみと言うことが浸透していないのだろう、あいあい傘なんて恋人以外することはないだろうし、わざわざしようとは思わない。加えて日景の知名度もあって周囲の関心を引いている。 「よかったね、ラッキーボーイ」 「アンラッキーだよったく」  二人が雨をしのげるほどの大きさではないため、日景が僕にピッタリくっついてくる。左腕を犠牲にすることすら許されずに、なんとかしのげている。 「あ、こっち」  無理矢理方向転換させられ、帰り道から外れた。 「懐かしいよね、ここ」  腕を舵にして連れてこられたのは、昔よく遊んでいた公園だった。滑り台とブランコ、鉄棒と砂場しかない小さな公園だ。 「小さい頃はここから飛び降りるの怖かったな~」  滑り台の下に来て、手を伸ばして高さを確かめていた。小さい頃はジャンプしても届かなかったのに、今は届かないことはないくらい、低く感じた。 「さて、じゃあお待ちかねの」  日景が僕の傘を奪って、「濡れ鼠タイムじゃー」とたたんだ傘を振り回しながら駆け出した。
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