濡れ鼠みたいに

6/9
前へ
/9ページ
次へ
「おい、ちょっ!」  腕で頭を守るようにしながらもう片方の手で日景を掴もうとする。しかし、逃げるようにするりと僕の手をかわしてそのまま公園から出ていった。 「待てって!」  日景が何かを言っているが雨の中、当然聞き取れない。ただただザーっという音が途切れずに鳴り続いている。次第に強まってきた雨音が車の音よりも大きくて、通り過ぎていった車のワイパーが忙しなく動いていた。話には聞いたことのあるテレビの砂嵐ってこういう感じなのだろうか。ザーしか聞こえない、雨に支配されて白んだ視界に日景を追って駆けていく。  踏み出した足の足首まで水が浸り、走ると頭を通り越して飛沫が上がる。足を踏み出そうとしても、踏み出しても水が跳ねる。白いワイシャツに泥が飛んでところどころ茶色く、自身の汚点が浮き彫りになっていくような感覚になってきた。  日景を追いかけて波紋が揺れる先にまた私が波紋を作って追いかける。ずっと頭皮に直接雨粒が打撃を加えてきて、まつ毛に雨の残留が視界を遮られ、荒げる息の隙間をぬうように顔を滴る水が口に入ってくる。  他の人が水たまりを避けて、つま先立ちで歩いていく中、関係なく走り雨に打たれながら、ただひたすらに日景を追いかけていくことを、心の底で懐かしいと感じながら、転びそうになるのをこらえてひたすら走った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加