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しばらく走ったあと、また違う公園に僕たちはいた。今度は先程とは違い、ボール遊びもできたグラウンドや遊具も豊富にあるところだった。
息を切らして膝に手をつく僕の隣で、「なんか」と呟く日景に目を向けた。
「濡れ鼠って……楽しくない」
ベンチに座っていた日景が俯いていた。
「冷たいし、寒いし、痛いし、ぐちゃぐちゃだし、最悪……」
吐き捨てた後、顔を両手で覆ってそのまま動かなくなった日景の隣に座って靴を脱いだ。靴下に木の葉や小さな枝、黒い汚れみたいなのが入り込んでぐちょぐちょだった。
「……ねぇ」
「ん?」
「私、少しは水ぼらしく見えるかな?」
「……ケンカ売ってんのか。水も滴るいい女だろ、どう見ても」
「へぇ、共也から見てそうなんだ」
「一般的な見解だ」
慰めてやったらすぐこれだ。さっきのしんみりさは何だったんだ。
「共也は、髪、上げていた方がかっこいいよ」
「嫌味か」
「ううん、個人的な見解」
「あっそ」
手で靴下の汚れを払う。自分のは自分で取り除けるが、人のを取り除けるほど器用ではない。日景が何に苦しんでいるのかは大体見当がつく。でも、僕では力不足だ。自分の力量は自分が一番よく知っている。中途半端にしても余計傷つけるだけだ。ならいっそ、見ないふり気づかないふりをする。日景はこの先何があっても、自分一人で生きていけることを知っているから。
でも、今回はそうするつもりはなかった。
「あの……さ」
でも、意識すればするほど頭が真っ白になる。はやくはやくと自分で勝手にせかしては出てこない。そして、
「……なんでもない」
と諦めざるを得なかった。
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