濡れ鼠みたいに

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「田舎のネズミと町のネズミの話し、知ってる?」 「は?」  前に読んだ漫画に出てきていた。主人公は町のネズミを、天使と呼ばれるキャラは田舎のネズミを選んでいたのを覚えている。 「……まぁ、なんとなくは」 「共也はさ、どっちがいい?」  どっちがいいかどうかを選べるほど田舎のネズミと町のネズミを知っているわけではない。ご馳走様が食べられるけど危険が多い町のネズミと、貧相なご飯だけれど危険が少ない田舎のネズミ、くらいざっくりとした内容を言われてもイマイチピンとこない。今住んでいるのが、都会すぎず田舎すぎず、何不自由なく暮らせているから、極端な二者択一をはっきりするなんてできない。  どちらも良くて、どちらも悪い。優柔不断であいまいで、自分がないような返答しかできない自分に奥歯をかむ。  それでも、水滴を拭うことなくじっと僕の選択を待っている彼女の真剣さに負けて、「田舎のネズミかなぁ」と、後者を選んだ。 「なんで?」 「なんでって……なんとなく」  僕が町にいるなんて想像できないし、それに。 「共也は町は嫌?」 「嫌っていうか……」  強い日景の隣に居れないことは今さっきに身をもって知らされていた。  今日、日景は弱みを見せた。昔から定期的に、方法は違えど弱みは見せてくれていた。それの相手が僕だということは誇らしくて、同時に辛くもあった。  こうやって弱さを吐き出して、次の日にはいつも通りにまた頑張り出す。何事もなかったかのように振舞えて、弱点のない完全無敵な日景としてまた憧憬の眼差しを向けられる。  横にいることすら許されない、不相応な自分を鏡で見るたびに悔しさに打ちひしがれる。何をするにも敵わない。何をしても上手くいかない。上手くいかないんだ。
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