涼雅

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 彼女が別の男を見ている。  涼雅は最近、幼い頃から見守ってきた婚約者が変わってきたことに気がついていた。彼女の父親である水澤伯爵の仕事を手伝っているという男が現れてからだ。  外務大臣主催の夜会でちらりと見た。確かに際立った美しさを持っている。  最初はその美しさに目を向けているだけかと思っていた。  しかし、急に櫻子の涼雅に対する態度が心ここに在らずのようにそっけないものになった。  平坦な口調で話し、目を逸らす。    あの話は本当か。    銀座のカフェで櫻子があの男の腕を握って熱心に話しかけていたというのは。そして、その直後に事件に巻き込まれたとは。  櫻子から話してくれるのを待っていたがなにも言ってくれない。やはりなにか隠しているのか。婚約者なのに。  夜会に一緒に出かける日、相変わらずのそっけない態度となにも話してくれないことにイライラして櫻子に酷い態度を取ってしまった。どうしても我慢できなかった。  薄々感じていた。櫻子は涼雅のことを兄のようにしか思っていないことを。でも兄としてでも少し話してくれればいいのに、しょせん他人としか思われていない。  水澤伯爵も涼雅に光の素性を説明しなかったが特に気にしてはなかった。しかし櫻子のこともあり調べたところ、木野光という男はもともと平民だ。しかも吉原で生まれ育ったという。櫻子と一緒にいられる立場ではない。伯爵がどのような手を使って光を男爵に仕立て上げたのかも薄々見えてきた。未来の義父とはいえ、なかなか恐ろしいことをする。  涼雅は額に手を当て目を閉じる。冷静にならなければと思いながら、腹の底から複雑な感情しか湧いてこない。  その名前がつけられない感情を押し出すように、深いため息をついた。
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