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光が仕事を始めてから吉原のこの見世には何人もの女性が来て去っていった。
すずなは客を取る前の日に、光に美しい紙で作った花の折り紙を渡した。
「これは、お礼。それと……これからもよろしくね。」
すずなの無理矢理作ったような笑顔を見て光の胸が詰まった。光も多分、同じ笑顔をすずなに返した。
「うん、こちらこそ。」
きっと、すずなのことが好きだったのだと思う。淡い初恋が終わった時だった。
その後、花魁の美扇はお金持ちの商人に見受けされて出て行った。
すずなは白藤と名前を変えて新しく花魁となった。
幼い女の子がやってきて体を壊したものが去って行った。
客を取れなくなった遊女が更に環境の悪い遊女屋に移ったり、下働きとして裏側へ回った。
苦労を知らず、何も知らなかった光にとって一つ一つが衝撃で、しかしそれがこの世界の決まりであるから飲み込むことしかできなかった。
遊女の生活は過酷だ。
仕事はもちろん身を削るものだが、年季明けとなって見世を出て行く者の不安と少しの希望を見せる顔、そして病になり苦しみ死んでいく者。
そして幼い頃に売られてふるいにかけられ、花魁になるべく育てられる者、そうでない者、下働きと区別される。
見世にとって商品の遊女として働けなくなれば下働きに回され、働き続けて力尽きる者もいる。
それでも皆必死に生きる。時には駆け引きをしたり見えないところで闘いを繰り広げながら生き延びることに力を注ぐのだ。
光はそのような遊女たちを美しく思う。
自分に何ができるだろうと考え、それを問うても遊女は皆「光はそのままいてくれるだけでいい」と言う。
汚れのない輝きを持つ光を見ることで救われると言うのだ。
しかしたまに考える。自身の母も遊女だった。父の顔も知らない。なのに遊郭主夫婦にぬくぬくと育てられた私は本当に汚れがないのか?
皆の犠牲の上に自分の甘えた生活があるのでは、と。
だが皆の期待に沿うことが自分にできることなのだと思い、仕事に励み、遊女たちには平等に接した。
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