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光が水澤家にきてから一か月ほどが経った。
「光の様子はどうだ?」
水澤伯爵が書類をまとめながら秘書の高梨に問うた。
「まだ自信なさげなところはありますが、この生活にも慣れ落ち着いております。
基本的な学問と行儀作法などは問題ありません。今は語学、西洋のマナーとダンス、護身術を習っていただいております。」
高梨は隙のない洋装姿で机を挟んで伯爵の前に立っている。伯爵は胸の前で指を組み、視線だけで高梨を見上げた。
「ほう。あれの養父母は溺愛していたからな。充分な教育を与えていたとみえる。」
「ええ、素晴らしいものですよ、基礎はできていますので、応用だけで済みそうです。
身のこなしも洗練されているので基本的なマナーさえ理解すれば上流階級の中にいても引けをとらないでしょう。」
「表に出すにはまだ早いが……。肩書は用意したか?」
「はい、後継のいなかった木野男爵が親戚筋から受け入れたとして養子縁組をしました。その件で男爵家に契約料を支払っております。」
「ああ、木野男爵は台所事情も苦しかったようだからな。」
木野男爵は高齢な上に経済的な事情で社交界に出なくなって久しい。
「問題ないだろうが、変な気を起こさないとも限らない。うまく処理してくれ。」
「方法は?」
「任せる。
光にはさらに仕事の心構えもしっかり教育して自信をつけさせろ。」
秘書は「承知いたしました。」と深く腰を折り部屋から出ていった。
伯爵は椅子に深くもたれかかり、計画を練り始めた。
さて、どうしようか。せっかく使える駒が増えたのだ。
手始めにどれほどのものか試してみたい気もするが、慎重に進めなければならない。
その三か月後、木野男爵一家は不慮の事故によってこの世を去り、光が爵位を受け継いだ。
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