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伯爵家の広大な敷地の中には洋風建築の本邸、渡り廊下を経て茶室を備えた武家屋敷がある。茶室のそばには井戸から引いた人工の小川が流れて池に流れ込み、宝石のような鯉が悠々と泳いでいる。その傍には数本の見事な桜の木が植わっている和風庭園がある。
今は青々とした葉桜になっているが、そこでは毎年大勢の客が招かれて花見が行われる。
そして広い芝生の庭と花壇や薬草園、門番が住む門の横の建物と使用人たちが住まう離れの横には馬や馬車を繋げている馬場があり、本邸の裏手にはもう一つ小さな洋館がある。
本邸から続く林の中のような小径を抜けると芝生の庭が現れ、レンガのテラスに囲まれた白い小さな洋館が隠されるように佇んでいる。
その洋館に光はいる。
本来なら木野男爵家の屋敷に住まうのだが、男爵家は困窮により使用人が残っておらず手入れが行き届いていないのと、伯爵の仕事の手伝いをするのに都合が良いという理由で伯爵邸の離れに住むことになった。
週に一度の葉室が休みの日、櫻子は女学校から帰ってからこっそりと見に行くことにした。
父は仕事、母は友人のところに出かけている日、櫻子は袴姿もそのままに小径に向かった。
考えてみると自分の家でなぜこんなにこそこそしなければならないのかと思いつつ、葉室や両親に知られれば面倒なことになるし見るだけと思い、木の陰からそっと様子を伺ってみた。
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