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久しぶりに大きな夜会が催されるとあって、上流社会はドレスの新調や準備に追われていた。
外務大臣が主催する夜会で、海外の要人から実業家まで招待される。そこに招待されるのはとても名誉なことなのだ。それに結婚相手を探す絶好の場でもあるため、皆華やかさを競っていた。
夜会の日、櫻子も婚約者である涼雅にエスコートされ出席した。
桜色のドレスにルビーの首飾りをつけた櫻子は名前の通り桜の精のように可憐で愛らしく、その場がぱっと華やかになる。またエスコートする涼雅も見目よくお似合いのため出席者の注目と感嘆の声を浴びた。
「お父さまはまだ来ていないようね。」
「主催者の外務大臣はいらっしゃるようだが、なにか用事があったのではないかな。」
櫻子にはよくわからないが東浦前大蔵大臣が退いた後、水澤伯爵は大蔵副大臣となり、忙しそうだ。
「櫻子、外務大臣に挨拶に行こう。」
「はい。」
徐々に人が増え、あちらこちらでそれぞれ飲み物を手に取ったりおしゃべりをしたりしている。音楽も演奏され始め、少しずつ踊る人たちも現れた。
そして櫻子と涼雅が外務大臣に挨拶をした後、入り口付近がざわついた。
そちらの方を見ると、水澤伯爵が後ろに光を従えていた。
光の美しさを引き立てる青白磁色の衣装に黒いループタイ。
長いまつ毛の目を伏せて、控えめに進んでくる。
伯爵も背が高いほうだが、同じくらい長身で細身の光は会場の視線を集めた。
もちろん、櫻子も驚きをもって見た。
なぜあの人がここに?
「まあ、あの方はどなたかしら。」
「西洋人にも負けない美しい方ですわね。」
貴婦人たちがため息混じりに頬を染めて光を見ていた。
櫻子は少しひろげた扇で口元を隠しながら面白くない気持ちになっていた。
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