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光の周囲には次は自分と、と思う令嬢や貴婦人が遠巻きに見ていた。男性陣はそれを面白くない目で見ていたが水澤伯爵の手前と男性でさえ近寄り難い光の美しさに何もできないようだった。
光がダンスを終え、水澤伯爵の元に戻ってくると、頬を赤くした令嬢を連れた外務大臣が水澤伯爵に近づいた。
「進藤外務大臣、どうされました?」
「先ほどは丁寧な挨拶をどうもありがとう。木野男爵はダンスも達者なのですね。」
「ありがとうございます。」
光がお辞儀をして外務大臣の後ろにいる令嬢に視線を動かすと、令嬢は真っ赤になった。
「ああ、そういえば先代の木野男爵は不幸なことでしたなあ。しかし、こんな立派な後継ができたとは。まして伯爵が見込んでいるとなると安心ですな。」
「ええ。とても賢い子なので将来が楽しみなんですよ。」
令嬢が外務大臣の袖をつんつんと引っ張る。
「そうだった、次の曲はうちの娘の相手をしてもらえないかね?」
「光栄です。」
光はさらに顔を上気させた外務大臣の令嬢の手を取り、微笑んだ。
その様子を羨ましく見ていた令嬢たちは自分の父親たちに口添えを頼み、夫や婚約者と来ていた貴婦人は悔しそうにしていた。
その中で櫻子は閉じた扇を握りしめて平静を装おうとしていた。
見なければ平気だと涼雅と飲み物を飲み、話し、踊った。
外務大臣が水澤伯爵に笑顔で話しかけた。
「櫻子さんも涼雅くんと仲睦まじいようでお似合いですな。先ほど挨拶してもらいました。息子さんたちも立派になられて安心ですな。」
「ええ、おかげさまで。」
水澤伯爵は手に持ったグラスを傾け、会場を広く見渡し、視界に娘と婚約者、そして光を収めていた。
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