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週が開けた月曜日、女学校では先日行われた外務大臣主催の夜会のことが話題の中心となっていた。
「櫻子さま! お待ちしていましたわ!」
「おはようございます。……待っていたとは?」
教室に入るなり五人ほどの友人に囲まれた。
「金曜日の夜会の光る君のことですよ! 櫻子さまのお父上である水澤伯爵といらっしゃったではありませんか。」
光の名前を聞いてどくんとしたが、下を向いて荷物を机に置いた。
「あの方、夏の事故で亡くなった木野男爵の後継だと聞いたのですけど?」
「ええ、そう聞いています。今はわたくしの父の仕事を手伝っているそうです。」
「まあ、そうなんですね。今度はどちらの夜会に出るとか、ご存知ありません?」
「さあ、わたくしは……。」
「櫻子さんは鷹塔さまという立派なお相手がいらっしゃるから興味はないと思いますが、わたくしたちにとっては大きなことですわ。」
「外務大臣の令嬢がダンスをしていましたわね、今度わたくしも父に頼もうかしら。」
「男爵であっても……わたくしは伯爵家ですけれど次女ですし問題ありませんわよね。」
櫻子を囲んで各々が頬を染めて光の噂をする。だんだんと腹立たしくなり、実は光は元平民なのだと話してしまおうかと思ったが、光や父の不利となってはと口をつぐんだ。そして微笑みながら友人たちに顔を向けた。
「みなさま、そろそろ先生がいらっしゃいますわ。」
「あら、そうですわね。」
「ではまた後で。」
皆がそれぞれ去って残った櫻子は、俯いて奥歯を噛み締めた。
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