涼雅

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涼雅

 数日後、櫻子は夜会に出るため部屋で準備していた。ドレッサーの前に座り、イヤリングをつけふと鏡を見る。  ひどい顔。  父とあの話をしてから眠りも浅く物思いに耽ることも多くなったせいか、なんとなくやつれて情けない顔をしている。  この夜会に光も来るかもしれないのに。  もう一つのイヤリングをつけているとノックの音が聞こえ、涼雅が入ってきた。パートナーとして一緒に夜会に出るのだ。  侍女が気を利かせて部屋から出て行き、すっと涼雅が櫻子の後ろに立った。 「準備はできた?」 「はい。」  目を伏せながら立ち上がると、いきなり腕をつかまれ引っ張られた。突然のことに声も出ず驚いたが、ぎりぎりと握られる痛みに顔を顰めた。  涼雅を睨むように見つめると、涼雅はぞくっとするような冷たい目をして見下ろしていた。 「この前のカフェのこと、説明してくれる?」  櫻子はさあっと青くなった。  なぜ涼雅が知っているのか混乱し、冷たい視線に耐えられず顔を背けると、顎をつかまれ無理やり顔を向けさせられた。 「僕の顔を見て?」  こんな涼雅は見たことがない。無表情で首を傾げ、すっと細めた冷たい目。 「君をカフェで見かけた人がご親切に教えてくれたんだよ。  涼雅くんの婚約者が綺麗な男の腕をつかんで何か必死に言っていたよ、ってね。」  背中がひやっとして血の気が引くのがわかる。 「皇室に繋がる鷹塔侯爵家の許嫁っていう立場がわかっている?  うちと繋がりを持ちたいのは君の家の方だろう?  大名華族の水澤伯爵が鷹塔の人脈と名前が欲しいんだろう?」  櫻子は小さく震え出してきた。  そんなことは知らない。こんな涼雅も知らない。   「確かにうちとしても君のお父上がしている事業と富は魅力的だ。だが恥をかかされるとなるとゴミは排除しなくてはね。」  涼雅は櫻子の顔から手を離し、ふっといつもの柔らかい笑顔に戻った。そしてするっと優しく頬を撫でた。 「髪の毛が乱れたね。直してから下においで。今日の夜会は少しぐらい遅れたって問題ないから。」  そう言って部屋を出ていった後、櫻子はへなへなと座り込んだ。  怖い……。  つかまれていた腕がじんじんと痛む。小刻みに震え、胸も頭も痛くなってきたが夜会に出ないという選択肢はないのだろう。  立ち上がって目をぎゅっとつぶった後、もう一度鏡に向かった。
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