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お楽しみと言ったのはこのことか。
櫻子はくらりとしたが、案内された椅子に座り、お茶を手に取った。
美香子があちこちに光を紹介して回るのをちらちらと見ていると、苦々しい思いが広がってきて涼雅と久史の話も耳に入ってこない。
美香子は櫻子とはまた別の華やかな美しさを持った女性で、光と並ぶとお似合いだ。
そして会場の羨ましそうな視線を感じているだろう美香子はさらに輝くような笑顔を振りまいていた。
「目立ちますねえ、あのお二人。」
久史が感嘆の声を上げた。それに対して涼雅は冷ややかな目を二人に向け、ため息をこぼした。
「今日の主役は久史なのにね。」
「いやいや、会場に華を添えてもらえていますよ。もちろん涼雅も櫻子さまもね。
お綺麗な婚約者殿で涼雅が羨ましいよ。」
「久史も美しい婚約者がいるじゃないか。ねえ、彩也子さま?」
久史の隣の彩也子ははにかむように微笑んだが、やはりたまに光を見ている。
***
帰りの馬車の中、涼雅が呆れるように言った。
「光くんはすごいね。中身はどうか知らないが、見た目だけであれほど耳目を集めるとはね。」
「うちの父が認めていますから、見た目だけではないと思いますが。」
「へえ、なるほどね。」
櫻子は涼雅の顔を見た。蔑むような目で見る涼雅にぞっとした。
「やはり先日のカフェの男は光くんかい?」
思わず目を逸らし、体を硬くした。
「今は同じ敷地内にいるんだろう? 問題だね。万一にも間違いがあってはいけないから伯爵にも進言しておこう。」
にっこりと綺麗な顔で微笑む涼雅を見ることができず、窓の外を見た。
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