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胸を高鳴らせながらこっそりと洋館に近づき、カーテンの隙間から中を見てみると、椅子の横のコーヒーテーブルに櫻子の編んだドイリーがあり、その上に小さな花瓶が置いてあった。
そして、光が以前ペンを走らせていた机の上には、きちんと畳まれたハンカチが置いてあった。
櫻子は両手で口元を覆って出てしまいそうな声を押さえた。
気づいてくれた。そして捨てずに置いてくれている。
胸の中にじわじわと暖かいものが広がった。今までこんなに嬉しいことはなかったでのはと思うぐらい嬉しく、胸がきゅっとなった。ふわふわと幸せな気分のまま本邸に戻った。
自室に戻ってからほっと息をつくと、瞼が熱くなって涙が滲んできた。
手紙を書いても大丈夫だろうか? そしてあの椅子の上に置けば気づいてくれるだろうか?
はあっと大きく息を吐き、女学校に行く準備をする。
帰ったら早速手紙を書こう。もし誰かに見つかっても不審に思われない内容。
今勉強していることを少しだけ。
驚くかしら。戸惑うかしら。
今までの自分では考えられないことをしているが、なぜかワクワクしてくる。父と涼雅の恐ろしさも吹き飛んでいた。
女学校では相変わらず光の噂を耳にしたが、前ほどは気にならなかった。
そうして一日の終わり、一縷の望みをかけて手紙をしたためた。何度も読み返し何度も書き直した。
どうかどうか、わたくしとの繋がりを断たないでほしい。
それからはいっそう勉強や手芸に熱心になり、葉室があきれるほどだった。
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