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数日後、サロンで葉室から和歌の手ほどきを受けていると、侍女がやってきた。
「鷹塔涼雅さまがいらっしゃいました。お通ししてよろしいですか?」
櫻子はそれを聞いた途端に体が冷たくなった気がした。青ざめた櫻子を見た葉室が
「いかがなさいました? ご気分がすぐれないのですか?」
と心配そうに聞いてきた。
「え、ええ、そう。少し気分が……。今はお客さまに会えないわ。」
「僕はお見舞いに来たんですよ。」
涼雅が帽子を取りながら入ってきた。
「葉室さん、席を外してもらえますか。」
葉室は訝しげに見ながらも櫻子の許婚であり侯爵家の子息の言うことには逆らえず、お辞儀をして退出した。
それを見送った涼雅がゆっくりと声を出した。
「気分がすぐれないと? 一昨日もそう言って茶会を断りましたね?」
櫻子は俯いて手をぎゅっと握り締め、座っていた。
「僕が来たのに立ち上がって出迎えることもできないと?」
涼雅がゆっくりと近づき、櫻子はますます体を固くした。
涼雅は櫻子の手首を掴み櫻子の顔の横に持ち上げた。無理矢理立ち上がらされた櫻子は、恐る恐る涼雅の顔を至近距離で見上げた。
「僕の顔を見なさいと言ったでしょう?」
目の前にあるのは、普段は優しげなのに今日は冷たい目をした婚約者。切れ長の目とすっと通った鼻筋は、光とは違う美しい顔をしている。
だが、それがひどく恐ろしい。
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