手紙

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 その日と女学校が休みの翌日は、葉室が習い事を休みにしてくれたおかげで部屋に閉じこもって過ごし、少し気分も持ち直してきた。  わかっている。自分に課せられた役割ぐらい。  しかし、以前の気位が高くわがままな自分からは考えられないぐらい、光の姿を見るためならば声を聞くためならばどんな努力をしてもいいほどなのだ。  結婚すればもう鷹塔侯爵家から出ることはなく、夜会でちらりと姿が見られればいい方となるだろう。  それに手紙を送ることもできず、繋がりも絶たれてしまう。  櫻子はゆっくりと長椅子から重い体を起こして机に向かい、ペンを取った。  なるべく明るい話題、昨日のことなんかなかったように明るい話題を……。  涙が溢れて途中書けなくなりながら、ゆっくりと字が震えないように書いた。  書き上がった手紙を持ち、ふうっと大きく息をついた。  朝ではないので周りに気を配りながら庭に出て離れの方へ向かった。  梅雨の合間の晴れの日で、少しむっとした空気が漂っていた。  庭の紫陽花が見事に咲きほこり、葉の上では露がきらきらと輝いていた。着物の裾を濡らさないように慎重に歩いていると離れのあずまやに着いた。
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