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「僕は君のお兄さんと同じ歳なんだよ。」
「はい、存じております。貴彦お兄さまが涼雅さまのことをとても優秀だと言っておりました。」
「そんな、言われるほど優秀ではないけれど櫻子さんの苦手な勉強があれば教えるぐらいはできるよ。」
櫻子はまだ恋を知らなかったが、涼雅のことは兄のように優しく接してくれるので好ましく思っていた。
その最初の顔合わせから、涼雅は頻繁に伯爵家を訪れるようになり、話をしたり一緒にダンスのレッスンを受けたりして一緒にいて当たり前のような存在になった。
***
櫻子が十五才となった頃、女学校での年頃の令嬢達の話題は将来に関することだった。
「櫻子さまはいいわね、鷹塔家の若さまが婚約者なのでしょう?」
「ええ、そうですわ。」
「身分も申し分ないし、とても素敵な方よね。」
女学校の友人から羨ましそうに言われるし、家族から「櫻子の未来の旦那さま」だと言われていたので、涼雅という婚約者も自分にふさわしく与えられたものだと感じていた。
「最近、参観に来られる方が増えたでしょう。わたくしも早く見初められたいわ。」
両頬に手を当て首を小さく振る友人にくすくす笑う。
「まあ。それよりもそんな話を先生に聞かれるとお小言を受けますわよ。」
華族女学校には息子の結婚相手を探す父兄が『参観』として訪れるようになってきた。華族女学校には当然華族の娘しか通わないので、息子の結婚相手を探すのに適しているのだった。
『参観』と称してやってきた父兄たちにも櫻子は注目の的だったが、婚約者が鷹塔家の令息と知るとため息をつかれた。
櫻子はまだまだ実感はないが周囲は未来の結婚相手の話で持ちきりだ。
涼雅さまのことは嫌いではないけれど、お兄さまのような感じ。そのうち恋を感じるようになるのかしら。
いつか物語で読むような恋心を涼雅に持つようになるのか、期待とほんの少しの怖さを抱いた。
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