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「相羽 倫、と言ったな」
「はい」
「相羽という姓には、聞き覚えがある」
そこで怜士は、再び瞼を伏せた。
そして、ささやいた。
「確か、相羽という男爵が、最近失脚したはずだ」
倫がすぐ傍にいるというのに、それは独り言のようだった。
「地方の小さな都市を任されていたが、銀行との癒着が発覚した。そして、収賄罪に問われ、爵位を剝奪された」
返事を求められている風でもないので、倫はただそのささやきに耳を傾けた。
「しかし。彼は市民からの信頼厚い、実直で真面目な人間だったはず。金に目が眩んで、道を踏み外すような男とは思えないが……」
一言も聞き漏らすまいと耳をそば立てる倫に、記憶を呼び覚ます男の名が告げられた。
「そして。相羽を糾弾したのは、私の実弟・北白川 丈士(きたしらかわ たけし)だ……」
怜士の弟・丈士の名を、倫は思い出した。
(北白川 丈士。確か、怜士さまを敵視している悪役だったはず!)
倫は、ひどく落ち着かなくなってきた。
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